第33話 嘘コク三人目 細井美葡
「その事は何度もお断りしてますよね?教室に何度も押しかけて来た上、京先輩とのお昼の憩いのひとときまで、邪魔してくるなんて…!もう本当にいい加減にして下さい!!
剛田先輩!」
芽衣子ちゃんは立ち上がり、そのイケメン=剛田(?)に食って掛かった。
「ははっ。仔猫ちゃん。まだ素直になれないのかな?俺の気を引く為にわざと名前まで、間違えて…。この俺、
いいよ。その心意気に免じて、マネージャーになってくれた暁には映えある俺の3番目のガールフレンドにしてあげるよ?」
剛原はキメ顔でウインクをした。
「き、気持ち悪っ…。余計、引き受けたくないですよっ!!」
芽衣子ちゃんは鳥肌を立てて嫌がっていた。
まぁ、いくらイケメンからとはいえ、下心満載(しかも、三股宣言)でマネージャー勧誘されても、不快感しかないだろう。
こいつ、本当に変わってないな…。
俺は、芽衣子ちゃんを庇うように立った。
「おい。その辺にしとけよ。彼女本当に嫌がってるだろ?」
「京先輩…!」
「何だ、君は?ん?確か、君は…。」
剛原は額に皺を寄せ、顎に指をかけ、何かを思い出すようなポーズをとっていたが…。
「ああ、美葡に絡んできた奴か…。君は俺のガールフレンドに手を出そうとするのが、趣味みたいだな。どうせ、俺に適うわけないのに…。」
「私は貴方なんかのガールフレンドじゃないっ!」
小馬鹿にしたように言う剛原に、芽衣子ちゃんは噛みつくように叫んだ。
「京先輩は、私の大事な嘘コクパートナーです!失礼な事言わないで下さい!!これ以上私達の邪魔をするなら、マキちゃんに封印されし、禁断の右足を解禁しますよ?」
ただならぬ怒りのオーラを漂わせた芽衣子ちゃんに、剛原も流石に怯んだらしい。
「OK! 今日のところは引くとしよう。 しかし、芽衣子さん、光り輝く君の隣に相応しいのは、そんなフツメンではないって事心に留め置いてくれ。一つ頂くよ。」
そして俺の側に置いてあったお弁当ボックスに手を伸ばして、サンドイッチを一つ掠め取った。
「ちょっ!お前勝手に…!」
「ああっ。私が京先輩の為に4時起きして作ったサンドイッチ(しかも、一番手間のかかったフルーツクリームサンド)がっ…!!」
俺達の非難の声を物ともせず、一口かじった。そして、パンのマークに気付くと、ニッコリ笑った。
「君の愛、確かに頂いたよ?では、またね?仔猫ちゃん。」
「あなたのために作ったんじゃないっ。もう二度と来ないでぇっ!!」
芽衣子ちゃんに涙目で怒鳴られながら、屋上を去ろうとしていた剛原だったが…。
突然扉が開き、制服を着崩した、女生徒が飛び出して来た。
「翔く〜ん!」
!!
右側の高い位置で一つに髪を結んだ、ギャルっぽい女子に俺は見覚えがあった。
細井美葡(16)俺と同学年でサッカー部のマネージャーだった筈だ。そして剛原の彼女。
「翔くん、こんなところにいた!捕まえた!もぅ、美葡寂しかったんだからぁ〜。」
「おやおや、美葡か。寂しがりのBABYちゃんだなぁ。」
「なにやってたの?」
「ああ。ちょっと、マネージャーになってくれそうな子がいたから、話をしていたんだよ。ぜひにってお手製のサンドイッチまで頂いちゃってね。いや、モテる男は辛いなぁ。」
「何言ってるんです?あなたが勝手に奪ったんでしょう!?」
「お前、自分の都合の良いように、話を捏造するなよ!」
呆れて文句を言う芽衣子ちゃんと俺だったが、それを聞いた細井美葡は、彼氏の言い分だけを拾って、俺達を睨みつけてきた。
「ええ?何、あんた、翔くんに手作りのお弁当なんか渡して気を引こうとしてるの?」
「誤解です!私は京先輩の為にお弁当作ってきたんです。剛田先輩のためじゃない!」
「ん?あんた、この前校内放送に出てた、一年の子?そっちは…。あっ、嘘コクの矢口…!」
俺と目が合うと、細井は気まずそうに視線を逸らした。
「ま、まぁ、あんたら、そういうことなら、勝手に楽しくやればいいけど、翔くんには手を出さないでね。矢口、あんたみたいなのを相手にしてくれる女の子がいてよかったね。マジ見る目ないと思うけどさ。彼女が人の彼氏に色目使わないよう、充分見張っといてよ?」
「むっかぁ!なんて言い草!そのセリフそっくりそのまま返しますよ!彼氏さんが、こっちに色目を使ってこないようにちゃんと手綱握っといて下さいよ!」
「生意気な奴ね!あんたみたいな子、マネージャーにもいらないから。こんな奴らに関わってると、気分悪くなるから、翔くん、行こっ。美葡、翔くんにお弁当作って来たんだよ〜。」
「ははっ。しょうがないなぁ。そんなに言うなら食べてやるか。」
細井と剛原は腕を絡ませ、イチャイチャしながら行ってしまった。
「全く、なんて迷惑なカップルでしょうか!」
芽衣子ちゃんはプンスカ怒っていたが、俺のお弁当ボックスを見ると半泣きになった。
「ぐすっ。せっかく作ったサンドイッチが…。京先輩。クリームサンド、私のでよかったら、どうぞ。」
芽衣子ちゃんは自分のお弁当から一つラップに包まれたサンドイッチを差し出してきた。
「えっ、芽衣子ちゃんの分でしょ?悪いよ。」
「いえ。私、家で試食してるからいいんです。私の、ちょっと形崩れちゃってるんですけど、嫌じゃなかったら…!」
芽衣子ちゃんは必死に言い募ってくる。
これで断ったら泣かれてしまいそうだ。
「そ、そうなの?それじゃ、ありがとう。」
俺がクリームサンドを受け取るとやっと笑顔になった。
「しかし、本当に迷惑な奴らだったな。」
「本当です!」
「俺さ。芽衣子ちゃんは本気出せば、いくらでもリア充男子と楽しい青春送れると思うし、俺なんかと嘘コクミッションするなんて青春の無駄遣いじゃないかと勿体なく思っていたんだよ。」
「えっ!なんですか、ソレ!?」
芽衣子ちゃんは涙目でがあんっとショックを受けた顔になった。
「でも、あいつ、剛原だけはやめた方がいい。あいつは女の子の事、アクセサリーぐらいにしか思ってない奴だ。」
「ええ、もちろん、あんな人は願い下げですけど…、京先輩、あの人達と何かあったんですか?なんか、二人共、京先輩の事を知ってるようでしたが…?」
「……。」
俺は過去の事を思い返して苦い顔になった。
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「矢口くん!聞いてほしい事があるんだけどね。実は前から私、あなたの事…。」
隣のクラスの佐々木さんに屋上前の階段に呼び出された時から、やな予感はしてた。
口元に手を当てて恥じらう様子は、彼女を見たのが初めてであれば、しおらしくて可愛らしいと思うのだろう。でも、君、そんなキャラじゃないよね。
隣のクラスの友達に教科書借りに行ったとき、股ガバッと開いて、友達とギャハギャハお喋りしてるの見てるからね。
口元に手を当ててるのは笑いそうなのを隠すためって分かってるよ?
それに極めつけが、階段の陰に隠れている
お友達…。
「はい。その嘘コク20点!」
「え!?」
告白する前に点数を告げられ、佐々木さんは度肝を抜かれているようだった。
「そこのスマホで動画とってるお友達、そこ死角になってない。丸見えだよ?」
「え!!」
そろそろと、佐々木さんのお友達が出てきて、佐々木さんと気まずそうに顔を見合わせる。
「「バレたか…。」」
「君達、嘘コクなめすぎ!嘘コクの第一人者たる俺の目は誤魔化せないよ。
顔を洗って出直してこいっつーの。」
「矢口のくせに生意気だ!」
「そうだそうだ、フツメンのくせに!」
俺に門前払いに遭い、スゴスゴと彼女達は自分のクラスに帰って行った。
俺は大きくため息をついてその様子を見送った。何せ今日はこれで嘘コクの刺客三人目…。疲れもするさ。
秋川に嘘コクウェルカムな動画を全校生徒にばら撒かれた後、こんな嘘コクや、からかいを受けそうになることが日常茶飯事となっていた。
そのほぼ全てを事前に見破り、未遂で防いでいるうちに、俺の嘘コク対応力は日に日にレベルアップしている。
最早、コレ嘘コク鑑定一級とかとってプロにでもなれんじゃね?
一体俺はどこへ向かっているんだ…?
遠い目で天井を仰いだとき、後ろから声をかけられた。
「ね。あんた、矢口だよね?」
見るからにギャルの女生徒がそこに立っていた。明らかに普段俺に声をかけてきそうにないキャラだな。
さては嘘コクの刺客か…?まだいたのか。
「そうだけど、何?嘘コクなら間に合ってるよ?」
出鼻を挫くように言ってやったが…。
「まぁまぁ、そう言わず。矢口、あたしと付き合ってよ。」
そのギャル=細井美葡は、綺麗にネイルアートの施された爪を目立たせるように、手を合わせると、俺ににっこり笑いかけてきた。
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