嘘コク三人目

第31話 友人の春

茶髪のS級美少女で後輩の氷川芽衣子(芽衣子ちゃん)から8回目の嘘コクを受け、彼女のたっての頼みで、何故か、7つの嘘コクミッションを再現するのに協力することになった俺=矢口京太郎(16)

2つのミッションをクリアし、残る○ラゴンボールもとい、ミッションはあと5つ!


嘘コク一人目の柳沢梨沙に嘘コクをけしかけ、クラスから孤立させたり、俺に嘘コクを仕掛け、嘘コクの噂を流したりやりたい放題の嘘コク二人目、秋川栗珠の弱味を握り、

奴の次の標的だった芽衣子ちゃんを守れたのはよかったが…。


翌週の月曜、遅刻スレスレに登校してきた俺に秋川が土下座で今までの事を謝ってきたのはビックリした。


これまでの秋川を知っている俺としては、何かの企みかと疑ったのだが、どうやら本気らしかった。

別人のようにやつれており、

何故か、俺の録った録音のデータを芽衣子ちゃんに聞かせないで欲しいとしきりに頼んできた。皆にではなく、何故芽衣子ちゃん限定で聞かせたくないのかと首を捻ったものだった。

その後すぐに秋川が今まで行っていた悪行が柳沢とバスケ部数名の手によって、明らかになった。

学校は悪質ないじめ事件として、秋川とその協力者、森下や酒井の加害者側と柳沢のように評判を落とされた被害者達側と連日保護者を交えた話し合いが持たれて、大騒ぎになっている。

秋川は大人しく事実を認めているとの事だったが…。


授業は自習の時間が増え、秋川達がクラスで過ごす事はほとんどなかった。


一気にリア充トップの女子達が抜け、クラスカーストトップのグループは崩壊し、

クラス全体に白けたムードが漂っていた。


しかし、今俺の目の前で、そんなクラスの雰囲気よりも数倍ショックなことが繰り広げられていた。


「俺は信じないぞ。これは何かの夢にも違いない…。」


俺はあまりの眩しさにその光景を直視する事が出来ず、目を瞑った。


「おいおい、京太郎。夢じゃないぞ?しっかり現実を見てくれ。」


豊かなお腹をポヨンと揺らして、困ったようにそう言う友人のマサと、

その隣には少しぽっちゃり気味だが、可愛らしい顔立ちの女生徒がマサに寄り添うように立っていた。


「俺達、京太郎にちゃんと祝福してもらいたいんだよ。」


照れたように、メガネをスチャッとかけ直しいるのは同じく友人のスギだった。

小柄な可愛い雰囲気の女生徒がスギの後ろからピョコッと顔を出している。


マサは言い訳のように早口で言った。


「いや、京太郎が昼休み用事で何日か出かけてたろ?

ボッチ飯やだなぁと思ってたら、同じように

友達が休んじゃってて、一人で弁当食べてる

マコちゃんに会ってさ。聞けば、趣味(ラーメン屋巡り)も同じでさ、一緒にお昼食べるうちに仲良くなったんだ。

俺も彼女が出来たなんて、京太郎にとても悪くて言えないと思ってたんだけどさ。

金曜の校内放送で、京太郎が一年のめっちゃ可愛い子とイチャついてるの見て、もう大丈夫かなって…。」


「あ、あれは、嘘コクで、絡まれているだけなんだって…。」


「そうなのか?いい雰囲気だったけどな?

ま、いいじゃないか?冗談でもあんな美少女に絡んでもらえるなんて。羨ましいくらいだぜ?あ、いやいや、俺にはマコちゃんが一番可愛いけどね?」


心配そうな顔で自分のシャツを引っ張る彼女に優しく言い聞かせるマサ。


寂しい友人の前でイチャイチャすんなや!


目から血の涙が出るほど羨ましかった!!


「ま、そういうわけで、しばらく俺達、お昼とか帰りとかそれぞれで過ごそうかと思うんだけど、どうかな?」


どうかな?じゃねーよ!!

俺達のカースト底辺の強い結束はどこへ行ったんだよ?

彼女が出来たからってそんな手の平返したみたいな…。

昼休みや放課後、俺にボッチで過ごせというのかよ?

この裏切り者共、俺は絶対認めないぞ!!


心の中ではそう叫び倒していた。


「ウン。ワカッタ。イイヨ。フタリトモ、オメデトウ!シアワセニナレヨ…。」


口に出しては、死んだ魚のような目でそう言うしかなかった…。


「ありがとう。京太郎ならそう言ってくれると思っていたよ!」


「ありがとう、京太郎。お前も、彼女できたら言ってくれな!」


そう言うと、マサとスギはそれぞれの彼女の肩を抱き、どこかへ行ってしまった。


燃え尽きたぜ…。

真っ白にな…。


「…い。……ぱい。」


一人教室に残された俺が白い灰のようになっていると、誰かに呼びかけられているのに気付いた。


「京先輩!」


「?!」


教室の入口からこちらを覗き込んで呼びかけてくるのは、件のS級美少女、芽衣子ちゃんだった。

話題の美少女が教室を訪れた事で、クラス中がざわついている。

俺は教室を見回し、注目を集めていることに気付くと、慌てて廊下に出ていった。


「芽衣子ちゃん。どうしたの?」

「京先輩。すみません。L○NEしたんですけど、返事がないから来ちゃいました。」


そして、彼女ははにかんだように笑った。


「今日は嘘コクの打ち合わせをかねて一緒にお昼食べませんか?」


また嘘コクか…。

先ほどの件で傷心中の俺は、八つ当たり気味に彼女を責めていた。


「あのねぇ。君の嘘コクに付き合っていたおかげでこっちは大変な事になったんだぞ?友達に彼女が出来ちゃったんだ!」


「えっ。私のせいでお友達に彼女さんが…?大変どうしよう!?」


一瞬青褪めた芽衣子ちゃんだったが…。


次の瞬間キョトンとして、首を傾げた。


「ん?いい事じゃないですか…?」


心底不思議そうに問い返され、芽衣子ちゃんの純真無垢な瞳から目を逸らした。


「いや、まぁ、そうなんだけどさ…。」


やべ。友人の幸せを願ってやれない自分の心の狭さを露呈しちゃったぜ…。


俺は赤面して頭をポリポリと掻いた。


「や、人気者の芽衣子ちゃんには分からないだろうけど、俺みたいなカースト底辺の奴は数人の友人以外は話す相手がいないから、友人に彼女が出来ちゃうと、お昼とか放課後とか寂しくなっちゃうかなって、ちょっと思っちゃってさ…。」


言い訳のように話す内容もかなり情けない。

くそ。頼りない先輩だと思われているだろうな…。恥ずっ!

俺は芽衣子ちゃんの顔が見れないでいた。


しかし、彼女は気にした様子もなく、ポンと手を叩いて、噺家のように、テンポよく話し出した。


「なるほど、なるほど!

私の嘘コクに付き合ってもらっていた間に、お友達に彼女さんが出来てしまい、お昼や、放課後がボッチになってしまったと…。

いやいや、こりゃー困った!大変だ!

私が是非とも責任取らなきゃいけませんね。

京先輩、これからは私とお昼や放課後を過ごしましょ?」


「ん?」


「マキちゃんが最近バスケ部に入って忙しそうで、私も丁度暇してとこだったんです。

嘘コクの打ち合わせ出来るし、一石二鳥…いや、三鳥というものです。

ねっ。京先輩、いいでしょう?」


満面の笑みを浮かべた彼女はやはりとても可愛かった。

とても憎むことなんて出来そうにない程に…。




*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。


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