第30話 氷川家 姉と弟の力関係

「はぁー、今日の京ちゃんも、めちゃんこカッコ良かったなぁ…。」


私は帰宅後、お気に入りの部屋着、レース付きのTシャツ、ショートパンツに着替えるとベッドに転がり、ゴロゴロしながら、今日の京ちゃんハイライトを頭の中で何度も再生していた。


校内放送では秋川先輩から私を守ろうと、

必死に立ち回ってくれた…。

凛々しい表情はまさに王子そのものだった。


帰りは駅までの道を一緒に歩いてくれた。

夕陽に照らされる京ちゃんの横顔はとてもミステリアスで、見ているだけどお腹いっぱい、幸せいっぱいで、黙っている時間も何だか心地よかった。


二人で一緒に見た夕焼けはすごく綺麗だった。


駅までの時間はあっと言う間で、家まではお互い反対方向の電車に乗らなければならず、

ホームでお別れになってしまった。


「めーこ」だって言えてたら、京ちゃん、どんな顔をしたかな?


もっと私が自分に自信を持てる位素敵な女の子になれたら、いいのに…。

そこまで考えて、


今日の秋川先輩とのやり取りを思い出して青褪めた。

京ちゃんは、秋川先輩の弱味を握るようなデータを手に入れて、ちゃんと手を打っていたのに、私は余計な画策をして、

先輩を泣かせた上、ちびらせてしまったなんて…!


京ちゃんには言えない!絶対言えない!


ごめんなさい。黒くて悪い芽衣子は今日で

終わりにします。


明日からはちゃんといい子になりますから…!


だから、神様!もう京ちゃんと引き離すのだけは止めて下さい!


私は、いつもは初詣と、受験の時位しか頼みにしていない神様に強く願っていたところ…。


「おい。バカ芽衣子。帰ってるか?」


中三の、義弟おとうと氷川静司ひかわせいじ(14)が、ガンガンという音と共に、部屋の扉ごしに声をかけてきた。


静くん、まーた扉蹴ってるな?私は若干イラッとしながら、扉を開け、

にっこり諭すように言ってあげる。


「静くん。姉さんと呼びなさいっていつも言ってるよね?」


「はっ?キモっ!!」


静くんは、端正な顔を思い切り歪めた。

中3にして、既に180センチの身長の弟、静くんは、キックボクシングの優秀な選手で、

ジムでは、皆から一目置かれる存在となっている。

そのくせ、勉強も結構できるらしい。

学校では、女の子達からキャーキャー言われているらしいが…。

とにかくお口が悪い。


一つ上の姉を姉とも思わず、常に上から目線で罵倒してくる。


まぁ、それでも、ある一点に関しては、少し態度を改めてくれるんだけど…。


「バカ芽衣子。試合近いんだけど、ちょっと相手してくれない?」


「ええー。あのねぇ。静くん。私ももう年頃の普通の可愛い女の子なんだからね?彼氏も出来ようお年頃なんだから。そーゆー事はもうしないの!」


「ハハッ。何が普通の可愛い女の子だ。キモっ!

どうせまたその右足で、学校で騒ぎ起こしてんじゃねーの?」


「起っ…こしてるわけないじゃん…。」


くっ。鋭いな…!

私は静くんから思い切り目を逸らした。


「あんま、笠原さんに迷惑かけんなよ?」


「うるさいな…。」


「なぁ。一回だけ。10分だけでもいいからよぉ。」


「はぁ?しつこいなぁ。やらないって言ってっ…。」


今日の黒歴史を無遠慮に掘り返すような事を言われ、頭に来ていた私はにべもなく断ろうとしたが…。


あ、そうだ!次のミッション…!


私は静くんに出来る限り優しい笑顔を向けた。


「うん。静くん。姉さん、相手してあげる!一回と言わず、この土日のうちに何回でも!そうだよね?試合前だもんね。バンバンやらないとね?」


「ああ?そりゃ有り難いけど、どうした?急に変わって…。」


「うん。付き合ってあげる代わりに静くんに姉さんの頼みを一つ聞いて欲しいんだぁ。

とりあえず、家だと怒られるから、下のトレーニングルームに出てやろっかぁ。」


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


その10分後ー。


激しい攻防の末、床にのびている弟の姿があった。


「静くん。試合近いんじゃないの?いくら女の子だからって手加減しなくていいんだよ?さぁ!もう一戦行こう!」


「くっそ姉貴ぃ…!」


静くんは、荒い息で立ち上がると、また、鋭いパンチと蹴りのコンビネーションを浴びせて来た。


私はその攻撃を柳のように逃して、

相手の脇腹に右足でクリティカルヒットを入れてやると、静くんは再び地面に沈んだ。


「ぐはぁっ。」


昔から私を容赦なくバカにしてくる弟だが、唯一、キックボクシングを一緒にやっているときだけは何故か私に優しい。


女の子だから手加減して、怪我しないよう配慮までしてくれる。


何だかんだ言って、姉を大切に思ってくれてるんだよね?


でも今は、試合前だし、力不足とはいえ、

私も可愛い弟の為に力になれるよう頑張らなくっちゃ…!


「静くん、もう少し本気出して大丈夫だよ?」


地面に寝ている静くんの肩を叩いて、声をかけたが…。


あれ?静くん返事しないな…。

もう…、やられた振り上手過ぎるよ。


本当に姉に優しい弟なんだから…!




*あとがき*


28話に引き続き、「本当は怖いめーこちゃん」なお話でした…(@_@;)


これから、芽衣子がヒロインとしてやっていけるかが、心配です(;_;)


強いヒロイン苦手な方は、ご期待に添えず本当にすみません m(__)m💦


嘘コク二人目の話はこれで終わりです。

秋川さんにはそれなりに、キツイお仕置きになったかと思いますが、どうでしたでしょうか。

この後、更に柳沢さんとバスケ部の方々によって、秋川さんの今までの悪事が明るみになりますが、それはサラッと後日談として語られる程度になります。


嘘コク三人目はのんびり(?)デート編になるかと思われます。

まだ読んでもいいよと思って頂ける方は今後もどうかよろしくお願いしますm(_ _)m


追記:この話の時点で、芽衣子ちゃんのお家は一軒家の設定だったのですが、その後マンションに設定を変えしまったので、静くんとキックボクシングの練習をする場所を庭ではなく、トレーニングルームに変更しました。


ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いしますm(__)m💦

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