第12話 茶髪の思い出

「芽衣子ぉ!あんた、ちょっと冷静になりな。綺麗な髪なのに勿体ないよ。」


「芽衣子ちゃん、そんな事(嘘コク)で髪を切るなんておかしいよ。やめなよ!」


「私にはそんな事(京ちゃんの好みになること)が一番大事なことなんです。止めないで、マキちゃん、京先輩!」


「ダメだ、芽衣子ちゃん!」


俺が嘘コクのミッションをうまくできないせいで、芽衣子ちゃんが髪を切る事になってしまったら、責任を感じてしまう。それも確かにある。


だが、それ以上に何故だが、分からないけど、無性にその綺麗な茶髪を切って欲しくないという思いが俺の中にあった。


「俺、別にショートカットが好みってワケじゃないよ!芽衣子ちゃんの髪切って欲しくない。やめてくれ!!」


「え。そうなの?」


芽衣子ちゃんはパチパチと瞬きをした。

そして、自分のセミロングの髪を一房手にして、おずおずと聞いてきた。


「えと…、私のこの髪、長い方が京先輩は好き…?」


「ああ、芽衣子ちゃんの茶髪、綺麗で好きだよ。だから、切らないでくれ。」


芽衣子ちゃんは、俺の言葉に息を飲むと、

次の瞬間、かああぁーっと耳まで真っ赤になった。


「きょ、京先輩が、私の髪を好きと言ってくれてすごく嬉しい…っ!私髪切るのやめます。ずっとこの髪型でいますねっ。」


「っ!!」


涙を浮かべて笑顔でそう言う彼女の表情はとても美しく、ふわっと風に靡く彼女の茶髪は

日に透けてとても綺麗で、俺の遠い昔の記憶を掘り起こした。


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幼い彼女の茶色い前髪を手で掬い上げると、ふわっと柔らかかったこと。そして、そこから現れた大きな瞳が、とても美しかったこと。


そして別れ際の彼女の言葉。


「京ちゃんは私の…。」


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「はい。カットぉ!芽衣子いい表情!!クオリティ高いの撮れたわー。」


笠原さんの声に俺ははっと我に返った。

今俺は何を考えていたんだ…。

芽衣子ちゃんとあの子を重ねるなんて。

全然違うタイプなのに…。


「え。撮ってたの…?」


芽衣子ちゃんが戸惑っていると、笠原さんはニィっと笑って親指を立てた。


「男女逆になったバージョンって感じで、いいかなーと思ってさ。」


「ね。矢口先輩?今の芽衣子綺麗でしたよね?」


「あ、ああ…。とても綺麗だったよ。」


笠原さんに返事をしつつ、じっとこっちをみてくる芽衣子ちゃんと視線が合うと、慌てて逸した。


何か意識しちゃうな。


「はわわ…。また綺麗って言われた…。今日はもう、お腹いっぱい…!!」


芽衣子ちゃんは芽衣子ちゃんで、真っ赤な顔を両手で隠して、いっぱいいっぱいの様子だった。


そんな俺たちの様子を見て、名監督=笠原さんは満足そうに頷いた。


「いい感じですね。お二人さん。じゃ、その雰囲気のまま、あとラスト一回だけ撮ってみましょうかね!」

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