10話.[まあでもいいか]

「春になったらなったで眠たくなるな~」

「大変だな」

「正秋は逆になにもなさすぎだ、驚いたりもしないしな」


 それはどこの世界の俺だろうか、俺なんて色々なことで引っかかるというのに、細かいことを気にしすぎだと言った際に「正秋だけには言われたくねえぞ」と言っていたのに忘れてしまったのだろうか。


「というかあれからなにもないまま一ヶ月が経過してしまったわけだが」

「なら大丈夫だろ」

「違うよ! なんにもないって恋人らしいことはしていないということだぞ!?」

「え、一緒にいられただろ?」

「それじゃあ足りないだろ……」


 そう言われても困るし、なにもしてこなかったのは彼の方だ、俺の気が変わるように行動しなければならないのは彼の方だ。


「俺らはこれでいいんだよ、一緒にいられるだけで十分だ」

「えぇ、これじゃあ付き合っていると言えないだろ……」

「言えるよ、なにかをしなくちゃいけないなんてルールはないんだから」


 色々な形があるんだ、俺らにはこれがぴったりというだけのことだった。

 だから悪く考える必要はない、寧ろこの緩さだから付き合うことができている。


「今回も同じクラスになれるように願っておくよ」

「フラグになりそう」

「またマイナス思考ターンに入っているのか?」


 緑だって無事に合格してもう入学ってところまできているのに不思議な存在だ。

 長年一緒にいるからあのハイテンションのときの一平が作ったものではないことを知っている、だから違和感がすごかった。


「誰だって不安になるときはある、俺は正秋よりも弱いから」

「なら不安なことを全部吐いておけよ、そうしたら少しは楽になるだろ」

「そうだな、あ、緑が楽しくやれるか気になるな、いまも言ったように同じクラスになれるかというのもある。あとは……」


 不安なことを吐いているはずなのに何故か楽しそうだった。

 水を差すのは違うから黙って待っていたのだが、うーんうーんとまだ答えは出ないみたいだ。


「この関係を長期化できるか、というところか」

「それなら問題ない、この距離感でいられるならな」

「なるほど、どうせ『一平が飽きるまでは付き合うよ』って言うんだろ」

「正解だ、俺のことをよく分かっている人間だ」

「はあ、まあでもいいか」


 それまではしっかり向き合うと神に誓おう。

 俺も一応自分の言ったことを守ろうとする人間だ、その点は安心してくれていい。


「よし、じゃあ今日も家に行こうぜ」

「おう、行くか」


 これからも緩く長く、そうやってやっていこうと決めたのだった。

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