09話.[本当のことだろ]

「合格おめでとう」

「ありがとうございます」

「はいこれ、一平から好きなプリンを聞いて買ってきたんだ」

「ありがとうございます、でも、どうせなら一緒に行きたかったです」


 勉強勉強で疲れただろうし、なにか買ってやるから出かけようぜ、なんて言えなかったから仕方がないことだと片付けてほしい。


「四月になりますね」

「早いな」

「私としては正秋さんに放置されすぎてやっとかって感じですけど」

「放置……」


 放置ではなくあれは彼女のことを考えて行動したわけだが……。

 年頃の少女の相手をするのは難しい、俺が仮に全く考えずに行っていたらそれだって文句を言われていたことだろう。


「でも、これからは来てくれますよね?」

「行かせてもらうよ。というかさ」


 色々なところを見てから彼女に意識を戻す、彼女は「はい?」とそれだけでは分かっていないみたいだった。


「なんでわざわざ家以外の場所にしたんだ?」

「いいじゃないですか、それに座っている時間が長すぎて分かりやすく運動不足でしたからね」

「いやまあ、緑がいいならいいけど」

「いいんですよー」


 あのお気に入りの場所だから俺としても悪くはない、ベンチに座ったままだと見下ろすことはできないが。

 この土地に住んでいる限りはずっと見ることができる、公園などと違って○○が撤去された~なんてことはないから安心だ。

 ひとりでもいいし、こうして仲がいい誰かがいてくれるのもいい。


「上手くできますかね?」

「できる、何故なら俺でもできたから」

「……珍しく断言したと思ったら……」

「本当のことだろ」


 とはいえ、高校生活については問題ないだろうが人間関係については誰も分からないことだった、そこだけは相手がどうするのかも関わってくるからだ。


「困ったら来ればいい」

「そうですね、同じ学校内にお兄ちゃんと正秋さんがいてくれているわけですしね」

「俺はすぐに教室から逃げるけど、一平なら教室にいるから」


 なんなら一平の友達と友達になってしまうことで自分を安心させる、なんてこともできるんだ。

 頼れる存在が増えるとそれだけで全く違う、俺みたいにひとりとしか話せないとなると他を優先されたときにどうしようもなくなるから。


「逃げるならいいですね、教室にいられるより話しかけやすいです」

「って、中学のときはそんなこと気にしていなかっただろ?」

「中学校でするのと高校でするのとでは違いますよ」

「まあ、そうか」


 こっちとしては相手をさせてもらうだけでいいから気楽だが。

 でも、一平のところに行っているところしか想像できなかった。

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