終章

「さて、天気良好、とはいかないけど、海に出るには問題なしかな」


 久方ぶりに帆を張って、奏澄はコバルト号の上甲板から『窓』を眺めていた。


「でも、いいんですか? ハリソン先生。この島を出てしまうと、もうはぐれ者を治療する機会はなくなると思いますけど」


 くるりと振り返った先には、ハリソンの姿があった。ハリソンは、この島には残らずに、奏澄とメイズの出航に合わせて、また船医として船に乗ってくれることになったのだ。


「構いませんよ。かなりのデータは取れましたし、助手も一年で随分と育ちました。もう私がいなくても、困らないでしょう。それなら、外の世界であなたの傍についていた方が安心です」

「正直、助かります。ありがとうございます」


 奏澄が眉を下げて微笑むと、ハリソンも心得たように微笑んだ。


「最初は、どこに行くんだ」


 メイズの言葉に、奏澄は決めていたとばかりに答えた。


「アルメイシャ! メイズと回った順に、回ろうかなって」


 アルメイシャには、ライアーとマリーたちが待っている。最初に、奏澄の仲間になってくれた者たちだ。せっかくだから、仲間たちと会った順番に、もう一度世界を巡っていこう。

 今度は、義務じゃない。会いたい人に会いに行くための、楽しい船旅だ。そして。


 奏澄がメイズをじっと見ていると、視線に気づいたメイズが首を傾げた。それに何を答えることもなく、奏澄は照れくさそうに笑った。


 愛しい人が隣にいる。それだけで、何も不安はない。大丈夫だ。


「出航!」


 海面を波立たせ、船は進み、窓を潜って大海原を往く。

 たんぽぽの旗を、風にはためかせて。






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