03 崛起(くっき)

「この世は地獄、生き地獄。ならば、その地獄を焼き尽くす――劫火ごうかとならん」


 紅々あかあかとした陽は落ちて、今や、夜。

 月明かりの下、墨染のごろもをひるがえし、坊主をやめた男――重八が走る。

 そして近在の村に戻ると、すぐに十人ほどの影が現れた。


「重八」


か」


「応」


 と呼ばれた、湾刀を持った青年は、の奴が人数を集めてくれたと言った。


「ありがたい。で、は?」


「その、お国の将軍とやらを探ってる」


 そう言っている間にも、と名乗る、身の丈七尺の長身の男が戻って来た。

 は、悔しそうに顔を歪ませる。


「奴め、官の城でうたげを」


「そうか」


 ぎり、と重八が歯噛はがみする。

 罪の無い寺、無辜むこの民草から奪い取った米穀、財貨、そして女を侍らせて宴会か。

 重八の周囲のなどの十人の影も歯噛みする。

 彼らもまた、重八の同郷。

 搾取され、強奪される立場であった。


「いいか、お前たち」


 重八の鋭い眼光に、一同、すくみ上るように沈黙した。


「敵以外は殺すな。連れて来られた民草は見逃がせ」


 おれたちは賊だけど賊じゃない。

 重八の無言の宣言に、十人は身が震えた。


「これは――起義だ」


「起義」


 一同を代表して、がうなずく。


「国のどもを斬れ。おれたちの米を奪い返せ。そして……」


 そこで重八は言葉を切った。

 今や、日は沈み、月が現れでている。

 が、夜は夜。

 あたりは薄暗がりだ。

 しかし、そんな中、重八の瞳は炯々けいけい光った。


「米は……村々に、民草に返す」


「いいのか」


 今度はの発言だ。彼は、前々から賊に身を投じろと重八に勧めていたこともあり、賊へのをないがしろにすることは、ためらわれた。


「いい」


 重八には心算があった。

 そしてきびすを返すと、国の将軍の居るという、官の城に向かう。

 走りながら叫ぶ。


「おれ一人で行く。城に火の手が上がったら、攻め込め」


 その時、賊を名乗るのを忘れるなよ、と言い置いて、重八はさらに足を早め、疾風のように駆けて行った。

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