02 荒城

 重八の寺の焼け跡の近くの荒れ城。

 そこに盤踞ばんきょする賊がいた。

 賊は門番が「異様な雰囲気の坊主が来た」との報告を受け、どんな奴かと城門まで足を運んだ。

 そこには、酷く醜悪な面相の、だがそれでいて、強い迫力を感じさせる托鉢僧――重八が縛られて、転がっていた。

 何しに来た、と問うと、重八はあんたに会いに来た、と答えた。

 賊は重八に興味を抱いた。


「縄を解いてやれ」


 門番が無言で縄を解くと、重八は礼も言わずに立ち上がった。


「手下にしてくれ」


 頼んでいるわりには、睥睨へいげいする視線が強すぎる。

 だが賊は、この強面こわもては使える、と判じた。


「いいだろう」


「早速仕事がしたい」


か」


 賊が驚くと、重八は、国が派遣した将軍が、近くの寺や村を襲い、そのに満足している最中だと思うと言った。


「油断している。これを襲えば、勝てる」


「簡単に言うな」


 重八の言うとおりかもしれないが、賊の手下たちからすると、新参の言うことなど、誰が聞くものか。


「おれの馴染なじみの、若いのを連れて行くから、いい」


 重八はこのあたりの出身で、小さい頃は餓鬼大将、今は顔役という立ち位置にいた。

 声をかければ、十人くらいは集まるという。

 つまりは、襲撃後に匿ってくれればいいと言う。


「じゃ、行くぜ」


「おい待て」


「何だ」


「そうまでして……いったい、何が狙いだ?」


「拙僧……おれに家族はいない」


 皆、流行り病で死んだと重八はこぼした。

 賊は、それが何だと聞いた。


は……は、そんなおれに、家族ってのを、思い出させてくれた」


 ほんの、わずかなものだったがなと呟く重八の脳裏に、りし日の童女との思い出がよみがえった。



――お坊さん、お腹空いてるの?


――ああ、托鉢がうまくいかなくてね。


――怖い顔してるね、お坊さん。


――よく言われるよ。重八、お前は悪相だってな。


――だから貰えないんじゃない、お布施?


――ちがいない! 次から、顔を隠していこう!


――笑いごとじゃないよ、お坊さん。もう、仕方ないな。


 ……そう言って差し出された焼餅を、重八は何度も伏し拝みながらいただいた。

 あまりの食べっぷりに笑い出した童女は、そんなに焼餅が好きなら、また明日にでも来てくれと言った。


――じゃ、また来てよ。


――ああ。


――あ、ちゃんと言わないと。こういう時は、さよならって。


――ああ、そうだったな。じゃ、さよなら……。


 しかし、その「明日」、托鉢を終えてから童女に会いに行こうとした重八だったが、寺は焼け、村は……。



「……役人や将軍が、おれたち民草を食い物にする。それは間違っている。それを誰も罰しないなら、おれが――罰してやる。だからおれは坊主をやめた。賊になる」


「気に入った」


 賊は重八に、自分たちのを建国する企てがあることを語った。


「お前のような奴がいると、おれたちのはくがつく。ケツは持ってやる。やってやれ。成功した暁には……」


 そこで賊は首を傾げた。


「お前、名を変えろ」


「何故」


「仮にもの将として取り立ててやろうというのだ。名にしな」


 頼んだぜ、と賊は可笑しそうに笑った。

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