第3話 ⦅借金、そして加入⦆

 そのままなるべく気配を消しながら、リオさんを取り囲んでいる男たちへと向かっていった。

 場合によっては...とシュミレートをしながら。

 しかし、どうやら杞憂に終わったらしい。

「どうかしましたか?」

「ん?あんた、ツレか?」

「はい。知り合いが男に囲まれてるんで、びっくりして」

「ああ、そういうことか。うちは貸したお金が戻ってこればそれでいいんだよ」

 ああ、借金取りなのか、この人。

 事実確認をするために、さっきから僕の方を見ながら固まっている彼女にアイコンタクトを試みる。

 すると彼女は、誤魔化すように力無く笑って見せた。

 ...事実らしい。

 それだけを確認して再度借金取りの方に目を向ける。

 きっと、お金を期限内に払えば手荒な事をしてくることは無いだろう。

「いくら返して欲しいの?」

 と聞きながら、彼らの背後にある屋台の値札に書いてある、おそらくこの世界の文字であろう幾何的な紋様ではなく、見慣れた数字を見る。

 なぜかは分からないけれど、数字はこの世界でも共通らしい。僕としてはとてもありがたい。

 旬とか時期によって価格は当然変わるだろうけど、大体物価は10分の1程度だった。

「13万セルだ。探索者じゃ稼ぐのに苦労するぜ?」

 セルがお金の単位なのか...

 いや、それは置いといて、約130万ほどか。

 探索者...この世界特有の職業かな。今言うってことは多分、リオさんは探索者なんだろうね。

「ちゃんと期限までに払いますから...シャルさんを巻き込まないでください」

「ふん、早く返せよ?」

 それだけ言って男たちは素直に帰っていった。

 頼みを聞くなんて、思ったよりいい人?

 出来事が出来事だから、その後どちらも話し出さなかったため、数秒ほど気まずい空気が流れたあと、リオさんが口を開ける。

「...では、次どこに行きますか?」

「いや、今更無かったことにするのは無理があるよ...」

「なら忘れてください!」

個人的には忘れたくないけれど。

話を聞いてしまったんだし、他人事じゃなくなったからね。

「質問、その借金はリオさん個人のもの?」

「いえ、うちのギルド全体のものです。4人しかいませんし、中々...」

「......僕も手伝おうか?」

「いや!?そんな悪いです!」

 予想通りの返答。

「じゃあ言い方を変えよう。青鳥ギルドに入りたい、と言ったら?」

 ギルド全体の借金なら、手伝うと言ってもギルドに入ると言っても本質は変わらない。けど、まだ僕はギルドの事をほとんどわかっていないからそもそも入れないとか言われたら白旗を挙げるしかなくなってしまう。

「...分かりました。いいですよ、、」

 随分と悩んでいたようだったが折れてくれた。見ず知らずの僕を入れてくれるなんて、青鳥ギルドは思ったより危機状況なのかもしれない。

「でも、、シャルさんはどうやってお金を稼ぐつもりなんですか?」

「いくらでもやりようはあるよ。複数の場所で働いたり、自分の能力を活かせるところを探すよ」

 元々、どんな環境でも生き残れるようにから。

「さっき出てきた探索者っていうのは?」

「...えっと、基本的には周りにあるダンジョンに入って出てくるモンスターを狩り、そこで手に入る物で生計を立てている人の事です。他にも依頼を受けて人々のために動いている人もいますね」

 自分の想像通りだ。ここでは前の世界では出来なかった、武力でお金を稼ぐことができる。

 僕にピッタリ過ぎる。

「なるにはどうしたらいい?それが一番手っ取り早く稼げそう」

「探索者は総称なので、依頼を受けたらもう探索者の仲間入りとなりますね。殆どの人が探索者登録をしています。この登録はいつでも受けられますよ」

 なら今から行っても問題無いわけか。

 いや、でもギルドの方が先かもしれない。リオさんの了承を得てはいるけど、褒められるようなやり方じゃなかったからね。

「なるほど、、先にギルドに行った方がいいかな?」

「そうですね、この時間だとみんないると思います。時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫、これからの予定は全くないよ。おまけに一文無し!」

「どこが大丈夫なんですか...」

 冷静に僕の身を案じてくるツッコミを受けながら、彼女の案内で青鳥ギルドへと向かった。



 それから、しばらく歩くこと体感30分ほど。

 着いた場所は白を基調としたどこか西欧風に感じ、数人は住めるであろう規模の建物だった。

 ぱっと見、いやぱっと見なくても現代の建物と差し支えない外見に、少し戦慄を覚えた。

「さっきまでのこと、内緒にしてくださいね」

 そう念を押されてから中に入ると、リビングの中に背の高い男の人がカーペットの上でゴロゴロしていた。

「レノさーん、ちょっといいですかー?」

 レノ、と呼ばれた彼はサラマンダーを彷彿とさせる赤色の髪をした好青年のように思えた。青要素皆無だけど。

「どうかしたかい?おや、初めて見る顔だね...リオのボーイフレンドかい?」

「残念、彼女とは初対面だよ」

「今その呼び方するのは意地悪じゃないかい?」

「あ、ばれた?」

「ははっ、まぁそれは置いといて。リオ、この彼は?」

「シャルさんです。加入希望の人で、私の命の恩人です」

「よろしく。本名は諸事情で言えないけど」

「...こちらこそ。レノ・スロワイズと言う、よろしく」

 リオさんが僕に紹介をした途端、微弱ではあるけれどレノさんの僕に対する警戒心が強まったように感じた。

「そうだ、もう一人呼ばないとね。リズ!新メンバーだよ!」

 どうやら2階にいたようで、レノさんの声に反応した途端大きな音を立てながら一人、同じく赤髪の、女性が勢いよく降りてきた。

「レノ!新メンバーってどういうことよ!」

「言葉の意味そのままさ!そこの猫耳の彼だよ」

「猫耳...?あんたが新メンバーだって言うの?」

 この二人が一緒にいると、どこか完成されたような、間に入るのが野暮に感じてしまうような、そんな強い関係で繋がっているように思える。

「そうですよリズさん。シャルさんです」

「ふぅん...リオ、昼まで時間ある?」

「今からご飯作るので、それまでならありますけど」

「じゃあんた、私と戦いなさい」

 と、急に指をさして戦闘を申し込んできた。物騒だねぇ...

「理由は、、いいや。売られた喧嘩は大体買うけれど、内容はこっちに選択権があるよね?」

「いいわよ。すぐにぶっ飛ばしてあげるわ」

 と、少し眼差しで火花を散らす。

「...レノさん、怪我は出ないようにしてくださいね」

「はは、もう慣れたものだよ」

 今までの彼女の破天荒ぶりが少し垣間見える会話を背中で聞きながら、戦場を探して扉を開いた。

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猫被り(物理)の異世界放浪記 イズ @lzudrq7lucky_clover

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