トムキャットとハリアーの弱点
星子は、にやりと笑うと勝負に出た。
機体を反転させイーグルから離れると手近な敵機を見つける。
「貰った!」
狙いを定め、引き金を引く。
二〇〇〇メートル離れていたが見事、イーグルに命中させ、撃墜する。
「よし一機撃墜」
星子は撃墜成果を出して初めてほっとした。
上官が戦死しているため、責任を追及されないよう実力を見せなければならない。
宗像は、北日本の高官の家だが星子は養女、それも出身成分が良くない。
能力のある子を見いだし出世させるのが北日本の高官のたしなみとなっている。
当然能力が無いとされると簡単に捨てられる。
ここで自分の能力を示すため、撃墜の成果を上げたかった。
勿論、帰還後だけでなく、今を生き延びるためにも星子は全力で攻撃した。
たちまち、更に一機を撃墜したが、止めない。
「もう一機!」
不用意に星子の後方へ接近してきた二機のイーグルに対して星子は機首を引き上げ急減速。
イーグルはオーバーシュート、追い越してしまう。機首を戻した星子は狙いを定め、前方に出てきた敵機を銃撃して撃墜する。
だが別編隊が減速した星子の機体を標的にして攻撃を仕掛ける。
しかし低速になり、旋回性能がよくなり急激な旋回で星子は反転。
強烈なGに耐えながらイーグルの正面に出ると再び射撃。
見事、イーグルを撃墜し、星子はスコアを上げた。
警戒心を強めて、他のイーグルは星子を囲むがそれこそ星子の思惑通りだ。
イーグル同士の間に入り、誤射の危険をよぎらせ攻撃を躊躇わせる。
「十分ね。このまま離脱する」
個人撃墜五機。
エースと呼ばれる機数だ。
だがエースになっても生きて帰れなければ、無意味だ。
しかし、複数の機体が迫ってくる。
「新手!」
ミサイルを撃たれ咄嗟に回避機動をとる。
回避に成功したが、敵機が追随、星子の後ろに迫ってきたのは予想外だった。
「トムキャット……いいえ敵の新型ね」
それはAVF10だった。
外見はトムキャットだったがノズルが見えないことから、新型と星子は判断する。
「邪魔よ」
それでも星子は接近し、銃撃を放つ。
しかし、AVF10は、更に狭い旋回を描いて回避する。
「機動性が向上している。厄介ね」
ペガサスエンジンの、推力偏向を利用したものだった。
旋回中に、機動の外側にノズルを向けることで更に旋回半径を小さく出来るのだ。
ハリアーから使われる空戦機動でペガサスエンジンを搭載したAVF10にも同じ事が出来る。
「これならどう!」
星子はミサイルに切り替えた。
更に銃撃を加えて牽制し、ミサイルの軌道へ誘導。
AVF10がミサイルに気が付いた時には遅かった。
至近距離で放った星子のミサイルが爆発する。
「浅かった」
胴体近くで爆発したが、少し離れていた。
とても撃墜できるようなダメージを与えたとは思えない。
しかし、突然AVF10がふらつき始めた。
「え?」
みるみるうちにスピンをはじめ、きりもみのまま墜落していった。
「どういうこと」
星子はその時理解できなかったが、のちの報告書では、トムキャットとペガサスエンジンの欠点が合わさった結果だった。
ミサイルは反応の大きい機体の中央部に命中しやすい。
しかし通常戦闘機のエンジンは後方にあり、命中しても大きな被害は受けにくい。
だがAVF10が搭載するペガサスエンジンは特性上、機体の中心に搭載しなければ垂直離陸できない。
そのため、中心部にあり、ミサイルの被害を受けやすい。
それでも片方のエンジンだけが止まっただけで済んだ。
しかし、そこでトムキャットの欠点が出た。
通常の戦闘機なら左右の間隔が狭いため、垂直尾翼の微調整で済む。
だがトムキャットは左右のエンジンの間隔が広いため、片方のエンジンが止まると、推力が偏り、勝手に回り始めてしまう。
これはトムキャットから起きていたことだった。
トムキャットの機体をを元に作られたAVF10も同じ欠点を持っていた。
そのため、エンジンが被害を受けやすく、片方のエンジンが止まっただけできりもみとなり簡単に撃墜されてしまったのだ。
「まあ、撃墜できたのは良かったわ」
迫ってきた火の粉を振り払えた。
しかし、星子はAVF10を追いかけすぎて、南の戦闘機部隊から離れてしまった。
誤射の危険が無くなったイーグルからミサイルが殺到する。
「これを待っていたのよ」
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