竹島奪回作戦
「上陸開始しました」
「よし」
総理官邸の地下指揮所で報告を受けた佐久田は頷いた。
日本の竹島奪回作戦は順調に始まった。
韓国軍の拠点となり得る鬱陵島は占拠し、済州島も抑えているため、韓国軍は反撃できない。
艦隊も潜水艦も全滅させ、竹島奪回を阻む者はいなかった。
「作戦は順調に推移しています」
激戦が予想された済州島上陸作戦が無事に終了し、完全制圧していた。
それより狭い竹島など簡単に奪回できる。
実際、作戦は順調だった。
予め空爆で主要な対艦ミサイルと対空ミサイルは破壊している。
陸上防衛部隊も艦砲射撃で制圧しており、韓国軍は頭を上げられない。
ヘリ部隊により上陸部隊が最高地点を制圧し、韓国眼を下へ追い詰めている。
戦況は有利に進んでいた。
幕僚たちにも楽観的な空気が流れている。
「油断するな。足下を掬われるぞ」
佐久田は浮かれる幕僚たちをたしなめる。
彼はあの大戦で大国アメリカ相手に劣勢の日本機動部隊を事実上指揮し、勝利に貢献してきた人間だった。
いくら圧倒的な戦力差があり優勢でも、隙は必ずある。
そこを見事に突いてきたため、優勢であっても安堵できない。
しかし、大戦後の世代である幕僚たちにはそのような経験はなく、思い至らない。
極東戦争で実戦を経験した者も少ないし、ベトナム戦争はアメリカの指揮下で行われたことであり、自分たちが主導するという意識が少ない。
イラン・イラク戦争の巻き添えを受けたが、あれも受動的なものだ。
統合作戦、陸海空すべてを動員しての作戦など大戦後初と言って良い。
国防軍は陸海空をまとめた統一軍としていたが、それでも専門は分かれており、自分の分野以外は知らない者が多い。
佐久田の場合は、旧海軍の砲術で上層部に睨まれ、陸上部隊へ配置され、大陸での戦闘に参加。
その過程で航空機に関わり、開戦時に南方作戦で統合作戦を経験。
ミッドウェーで機動部隊が再建された際、その人材として抜擢され、以後機動部隊の中心にいた。
しかも高木などに目を付けられ、国際政治の裏工作にも軍事部門のみとはいえ関わっている。
日本に、いや、世界を見渡しても佐久田ほどの人材はいなかった。
だからこそ、別次元の攻撃を受けるのではと考えてしまう。
しかし、佐久田の思いを理解できる人物などいなかった。
それゆえ、彼の焦りは募るばかりだった。
「韓国本土方面より接近する機体あり」
「迎撃可能な機体を出せ」
予想された行動であり、全員が迅速に対応した。
そのため、南方から接近する機体には注意を払わなかった。
南、日本の岩国か美保から飛び立った編隊の一部だと考えていた。
しかし、それは韓国軍の機体だった。
レーダーに発見されないよう海面すれすれの超低空を飛行し、波が生み出す反射に隠れて接近していた。
函館のミグ亡命事件で導入されたE-2CやE-3Cは、早期警戒や敵機の接近を見つけるために導入されたものだ。
だが、コンピュータの性能の限界から、海面上の機体を捉える能力は弱い。
これは仕方のないことだったが、致命的だった。
「初雪より警告! 敵機接近! 迎撃要請!」
味方を守るため警戒に進出していた駆逐艦「初雪」が敵機を発見し、迎撃を開始した。
しかし、それはすぐに防衛戦闘に移った。
当初は背後の上陸部隊あるいは空母を狙っての攻撃と思われた。
韓国軍の全大統領も、一矢報いて少しでも成果を残そうと攻撃を命じていた。
現場もこれが無謀であることを承知していた。
攻撃から生き残ったことで現実を知り、無駄だと判断していたが、命令に従わざるを得なかった。
韓国軍攻撃隊は命令通り日本の空母攻撃に発進した。
だが、日本の空母の正確な位置情報がなかった。
韓国軍の索敵能力など、日本の事前攻撃で全滅している。
頼れるのは自らの機体のレーダーのみだった。
そのため、狭い範囲で発見した目標を空母と認識し、手当たり次第に攻撃して退避しようと考えていた。
だからこそ、ピケット艦として前方へ進出していた「初雪」が標的となった。
北から侵入した飛行隊が半ば囮となり、迎撃戦闘機を引き寄せたことも韓国軍攻撃隊幸いした。
攻撃隊は日本の油断を突いてエグゾゼを発射。
直後、退避行動を開始して離脱した。
四基のエグゾゼが「初雪」を目指して飛んでいった。
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