黒潮 対 韓国潜水艦
「間違いないか?」
ソナー員の報告に、思わず速水は問い返した。
「間違いありません。ドイツのUボートの音です。配備しているのは韓国だけです」
対馬海峡で網を張っていた日本の潜水艦・黒潮が、海峡を通過しようとする韓国の潜水艦を探知した。
竹島から済州島へ向かうには、対馬海峡を通過する必要がある。
そのため佐久田は、予め対馬海峡に、対馬を挟んで分かれる東西両水道に潜水艦を一隻ずつ配備し、待ち構えさせていた。
そのうちの一隻、西水道で待機していた黒潮の前に韓国潜水艦が現れた。
「攻撃する」
黒潮艦長・深谷二佐は、静かに決断し命じた。
小さい声だが恰幅の良い体から出される低い音は発令所の全員の耳に届き、緊張が走る。
「ここを通すことはさせない」
対馬海峡を通過する潜水艦は全て撃沈するように命じられている。
他に味方の潜水艦はいない。
同士討ちを警戒して、同じ海域に味方潜水艦を配備することはない。
自分以外は全て敵であり、探知次第攻撃して良い。
念のために音紋による敵味方識別を行ったが、念のために過ぎない。
「魚雷装填」
「魚雷装填!」
深谷の命令ですぐに準備が整う。
「韓国軍潜水艦、間もなく本艦正面を通過します」
「やり過ごして後方から襲撃する」
正面から魚雷を撃ち込んでも良いが、反撃される恐れがある。
後ろから密かに接近して魚雷を撃ち込むことにした。
「目の前を通り過ぎました」
「他に潜水艦はいないか?」
「感なし」
「よし、襲撃する。浮上、微速前進。敵潜の背後へ回れ」
襲撃しているときが、襲撃されやすい。
周りに誰もいないことを確認してから、韓国潜水艦の背後に回る。
「ピンを打ちますか?」
緊張しながら副長の速水が尋ねた。
普段冷静だが、初の実戦に興奮しているようだった。
「いや、回避される。聴音だけで発射。命中寸前で魚雷から打って、撃沈する」
「了解」
速水も納得し、指示通りに行動する。
「魚雷、一番から四番まで準備完了」
「一番、二番打て!」
二本の魚雷が放たれた。
魚雷は韓国潜水艦の背後から迫る。
しかし、ソナーは艦首にあり、スクリューの騒音で背後から迫る魚雷に気が付いていない。
「間もなく命中します」
「魚雷にピンを打たせろ」
魚雷が探知音を出し、敵潜水艦を捕捉。食い付いた。
ようやく韓国潜水艦は自分が狙われている事に気が付いた。
回避しようとするが、既に魚雷が食い付いている。
魚雷は韓国潜水艦に命中。ドイツ製の耐圧殻を破壊し、撃沈した。
「……圧壊音確認……撃沈しました」
「反転百八十度。背後を確認」
深谷の命令を待つまでもなく、速水は素早く艦を反転させる。
攻撃後、敵に襲撃されるのを防ぐためだ。
素早い行動に深谷も満足する。
「周囲に推進音なし」
「侵入は防いだかな」
「あ、遠方で爆発音、及び圧壊音を確認」
「方角は?」
「東です」
「親潮だな」
東水道は親潮の哨戒区だ。
経験の浅い韓国潜水艦にやられるとは考えられず、味方が撃沈したと深谷は確信していたし、事実だった。
「さて、他に敵が攻めてくるかもしれない。警戒を続けろ」
「了解。あ、ソナーに反応あり」
「新たな潜水艦か?」
「違います。水上艦です。日本海側より接近。大型です」
「韓国の艦艇か?」
「はい」
「やることは同じだ。攻撃用意」
「いいえ、大型水上艦多数。中央にひときわ大きいのがいます」
「何か分かるか」
「はい、この音はメルボルン……いや、李舜臣です。周囲に多数の艦艇。韓国の機動艦隊です」
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