全大統領の激怒

「竹島……独島より撤退せよ、だと」


 アメリカからの通告を聞いた全大統領は怒り狂った。

 特に独島ではなく、日本名称の竹島と書いていることに、正当な国土奪還ではなく、武力行使による現状変更だと非難していた。

 それが余計に頭にきて顔をゆがませ机に拳を叩き付け叫んだ。


「韓国はまだ負けたわけでは無い! 李舜臣を中心とする機動部隊はまだ健在だ!」


「ですが、陸上基地が殆ど破壊され、航空支援が不可能な状況になっています」


 恐れおののきながらもプロとして側近は大統領に事実を伝えた。

 日本の空爆により、韓国が使える滑走路は全て破壊された。

 使える滑走路もあるが、在韓米軍がおり、滑走路の使用許可を出していなかった。

 元々日本との戦争に反対だったし、米軍が巻き込まれることを避けようとしていからだ。

 そのため、飛ばせる機体を韓国は、ほとんど有していなかった。


「李舜臣は艦載機を搭載しているだろう」


「ですが陸上の支援が無ければ脆く、勝ち目はありません」


「では何のために艦載機を、航空機を積んでいる」


 全大統領は空母の導入を進めたが、動かすために多大な支援が必要なことを理解していなかった。

 載せた艦載機で全て完結すると思い込んでいた。

 実際には艦載機だけでは足りず、護衛艦が周囲を警戒したり、陸上の航空隊が前方警戒のために哨戒機を出す必要があることなど、理解していなかった。

 韓国、いや自分の空母が日本を撃破することだけを夢見て叫んだ。


「日帝から取り戻した韓国領土を再び奪われてはならない。直ちに奪回のために艦隊を向かわせろ」


「それでは、待ち構える日本艦隊に撃滅される危険が」


「韓国領土を奪われることを看過することは出来ない! 直ちに向かわせろ!」


「空母李舜臣の艦載機だけでは日本への対抗は無理です」


「ならば潜水艦も向かわせろ」


「潜水艦は当初の計画通り、独島周辺で待ち伏せの準備をしています」


 日本が独島奪回に出て来ると想定しており、韓国海軍は独島を囲むように潜水艦を配備していた。

 どの方角から来ても、奪回に来た日本艦隊に痛打を与えられるようにするためだ。

 だが、済州島に来たため、全ての目算が崩れた。

 潜水艦は戦力として活用できなくなった。


「これを動かすと見つかる可能性が」


 海中では電波が通らず、音だけで探知する。

 潜水艦は静かに動くように作られているが、動けば見つかりやすくなる。


「敵は済州に来ているんだ。来ない敵を待ち構えて使わないなど馬鹿げている。すぐに移動させろ!」


「ですが、敵に見つかります」


「見つからないように海に潜っているのだろう。出来なければ意味が無いだろう」


 前大統領が執拗に攻撃を命じたのは、韓国領土を奪われた汚名を受けたくないから、国民からの指弾を恐れたためだ。

 独島の奪回は名声を与えるが、それと引き換えに済州島を失ったとなれば、支持はがた落ちとなる。


「すぐに艦隊と潜水艦を済州島救援に向かわせろ! 今すぐ、全ての戦力を出せ」


「しかし」


「大統領命令だ」


「……分かりました」


 側近は折れて、潜水艦に移動命令を出した。


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