ホワイトハウスの思惑
「やはり食わせものだな」
会談が終わり佐久田が退出した後、レーガンは側近達と話し始めた。
「日本の行動を認めるようにという助言に従ったが、良いのか」
「はい、戦闘地域を局限するのは戦火の拡大を防ぐには有効です。しかし、戦闘地域の外にある根拠地、策源地を残すことになり戦闘が長期化する恐れがあります」
一般に戦闘とは銃火を交える戦場という認識がある。
だが戦闘に使う銃弾や兵士が生きていくための食糧を輸送備蓄し送り出す拠点が必要であり、時にそれらは実際に戦うより重要だ。
特に精密兵器である航空機や艦船は補給と整備を行う拠点が必要となる。
機動力のある彼らは戦闘地域の外にある拠点から出撃して参加する事が出来る。
彼らの拠点を破壊しなければ戦闘が長引く事例は多い。
例えば日本の敗北とされるノモンハンの戦いだが、前半は日本が優勢に戦った。
しかし、戦果拡大を恐れ抑制的に行動した結果、ソ連領内の拠点から続々と増援や支援航空機が飛んできて後半圧倒され敗北した。
時に相手の領土の中へ攻撃を行わなければならないのだ。
「日本の行動を非難しますと、アメリカが紛争に介入するときの選択肢を狭めます」
ベトナムから退いたとはいえ、世界の警察官、西側の盟主として各地の紛争地に介入する必要がある。
その時、紛争の解決手段として、戦闘地域では無いからと言って、策源地を攻撃できないというは痛手だ。
「戦火の拡大に繋がるおそれが有るが」
「勿論ですが、長期化して泥沼化するのを抑える可能性もあります。ベトナムのように泥沼になるのを防ぐのに必要です」
「世の中難しいものだなブッシュ」
「はい」
レーガンの言葉に副大統領が頷いた。
大統領選で候補者同士として争った。だが、レーガンが当選すると副大統領として迎え入れ、今では忠実なスタッフだ。
暗殺未遂の時、ホワイトハウスの混乱を収め、信頼すると今はホワイトハウスの危機管理センターの管理官にしている。
「強いアメリカでいるには、日々努力しないといけないということです」
「そうだな。悪の帝国に勝つには、強くあらねば。そのためには陣営の結束を強めねば。もちろん、アメリカが中心となるように」
日本は有力な同盟国だがイギリスと違い、世界第二位と国力が高すぎる。
心強いが、強すぎると陣営内に混乱をもたらしてしまう。
少しは弱める必要がある。
そのために韓国が戦争をおこすことを許した。
「それで、日本は戦争に勝てるのか?」
レーガンは海軍関係に強い側近に聞いた。
「韓国の艦隊が残っているが、日本艦隊に対抗できるか?」
「韓国艦隊は恐らく、間もなく崩壊するでしょう」
「勝ち目は無いのだな?」
「はい、日本が圧倒的です。信濃の運用が出来ますし、韓国の迎撃態勢は崩壊しました。ここからはいかに損害を最小限に抑えるか考える時期に来ています」
「手遅れになる前に手を引くように韓国に言うことにしよう」
「韓国が聞くとは思えませんが」
「アメリカは警告した。従わなかったのは韓国だ。それが重要なのだろう」
「そうです。韓国には報いを受けてもらいましょう。具体的には戦闘を起こしたことによる輸入規制、復興のための債権販売をニューヨークに限定する。他にも何かしらペナルティを入れます」
暴走した韓国が言うことを聞くとはホワイトハウスは誰も信じていない。
ならば暴走したことで失点させ、言うことを聞きやすくするカードにする腹づもりだった。
「ああ、それと纏めておいてくれ、今後韓国をどのようにするべきか。アメリカの負担を少なくしたい。少なくともこのような暴走国家が出ないようにするために必要な処置を考えておいて貰いたい」
「了解しました」
「あとは、強いアメリカを作るための計画を、アメリカ軍の増強計画の立案を頼む。宇宙にもアメリカ軍を配置して、ソ連を全方位から包囲して潰したい」
「分かっております大統領。ソ連はこの競争に勝てないくらいの計画を立案して見せます」
「ブッシュ、韓国が我々の言うことを聞くように工作を頼む」
「分かりました」
秘密工作などの分野でもブッシュは役に立ってくれている。
ソ連を弱体化するためにアフガンへムジャヒディンを送り込むなどの工作を行ってくれている。
この功績は大きく、二期目のレーガンは彼を後継者にすることも考えていた。
彼なら十分に職責を果たしてくれるだろうと思っていた。
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