日本の状況と作戦開始

「司令官」


 疑問に対する不安を抑えることが出来ず、幕僚の一人が話した。


「何だ?」


「日本は最後通告を発し、三十八度線より南側、独島を含む日本海南部とその周辺、韓国沿岸部を戦闘海域とする宣言をしました。この領域内に入る船舶や航空機は攻撃を受けると警告しています。日本が大規模な攻撃を行う前兆では?」


「日本が侵略の陰謀を顕にし始めただけだ。本性が現れたに過ぎない。だが、これで大義名分は整った。日本の攻撃はあるだろうが、使える空母が小型の生駒しかいない日本など、大した事ではない」


「ですが、空母信濃が出航したという報告が」


「帰還してわずか七二時間で航空機運用能力を回復できるはずがない。我々の動揺を誘うためのブラフのために出航させたに過ぎない」


 通常ならば、とても重要な空母を損傷した状態で出撃させるなどあり得ない。

 だが、これは海軍の歴史が浅く、艦船が貴重に思える新興海軍の考え方だ。

 しかし、太平洋で米軍と死闘を繰り広げた日本は、時間がいかに重要であるかを知っていた。必要なときに最大限の戦力を投入する、そのために必要最小限の能力さえあれば、躊躇なく戦力を出すことを学んでいた。

 ここが韓国との差となった。


「それに、我々は空母だけでなく潜水艦もいる」


 ドイツから購入した潜水艦を独島周辺に配備し、日本艦隊を待ち構えていた。


「もし近付いてくれば、潜水艦が雷撃し、戦艦だろうと空母だろうと海の藻屑にしてやる」


 待ち伏せ攻撃は、潜水艦が最も得意とするところだ。

 見つかりにくく、奇襲をかけやすい。

 いかに日本の機動部隊が強大であろうと、潜水艦に対しては弱い。


「日本は対潜哨戒機を多数配備していますが」


 前大戦でアメリカの潜水艦に痛手を受けた日本は、通商護衛を優先し、対潜部隊を多数整備している。P2Cはもちろん、最近はP3Cの配備を開始。

 国産のP1哨戒機の開発配備も行っている。

 潜水艦を見つけ出すことに関しては、米海軍以上とされている。


「だが、哨戒機だ。戦闘機の敵ではない」


 韓国も日本の対潜能力は理解しており、多数の戦闘機を飛ばして、哨戒機狩りを行っていた。

 日本も分が悪いことは理解しており、哨戒機を出すことは避けていた。

 こうなると潜水艦狩りなど出来ず、韓国の潜水艦は生き残り、日本機動部隊を牙に掛けることが出来る。

 韓国の迎撃態勢は万全に見えた。


「動揺するな! 日帝の罠にはまるぞ!」


 言外に弱気な発言をしたら制裁すると言っていた。

 こう言われては、もはや誰も弱気なことは言えなかった。

 しかし思わぬ事が起き、緊急電を受けた伝令が駆け込んできた。


「緊急報告! 日本軍が現れました!」


「来たか。何処だ!」


「それが……」




「全航空隊、突入せよ」


 上原は指揮下の飛行隊に命じ、真っ先に韓国領土、朝鮮半島にある韓国軍基地へ突入した。

 上陸作戦を前に、反撃できないよう、上陸地点周辺の敵の拠点を叩くのは、基本中の基本だ。

 韓国軍の拠点になりそうな空軍基地、レーダー、民間空港へ攻撃を行い、これを破壊した。

 ただ、米韓連合司令部、米軍の指揮下にあったり、米軍が駐留している基地を攻撃する事は避けた。

 アメリカとの関係悪化を避け、日本への制裁を行う口実を与えないためだ。

 攻撃目標として排除したため、反撃拠点にされる危険はあったが、外交上、日本が国際政治で優位に立てるようになった。

 もしアメリカの怒りを買えば、日本など吹き飛ばされてしまう。

 国際政治上の劣勢に向かわずに済ませたのは、日本を有利にすることに繋がった。

 だが、日本の配慮はそこまでだ。

 他の韓国軍、郷土予備軍は容赦しない。


「敵機発見。フェニックスを発射する」


 E3からの命令で搭載していたフェニックスミサイルを発射する。

 飛び立ったF5ダガー、F4ファントムが撃墜される。

 射程一八〇キロを超えるフェニックスミサイルのアウトレンジ攻撃を前に抵抗できなかった。

 次々と攻撃を受け撃墜されていく。

 F14、F15をはじめとする第四世代機をほとんど購入できず、一世代前の戦闘機ばかりを装備する韓国軍は、ほとんど相手にならなかった。

 初日、いや日付が変わった数時間の内に韓国軍は制空権を失い、次々とレーダー基地、滑走路を破壊され、組織的行動力を失った。

 だが、本格的な攻撃はこれからだった。


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