超音速太平洋横断

 航空自衛隊支援航空集団、特別航空輸送航空団は日本政府のため、直接的・間接的な防衛ではなく、政府要人や要員の航空移動を行う任務を遂行するために編成されていた。


 その一つ、第二特別航空輸送隊は、世界的にも珍しい機体を装備していた。

 そして、その根拠地はある理由から成田空港に置かれていた。


「よろしく頼む」


 東京から車を飛ばして到着した作田は、降りるとクルーに向かって挨拶する。

 そして、搭乗する機体へ案内された。

 他の旅客機と違い、針のように尖った機首。

 細い胴体に巨大な三角翼。


 超音速旅客機コンコルド、その軍用機版だ。

 正確には、コンコルドP型――パシフィック型からの改修だ。


 当初、コンコルドは英仏共同で開発されていたが、開発費の高騰により、資金が払底した。

 しかし、日本に資金援助を求めた。

 当初、日本はボーイング案に協力していたが、ボーイングも開発費高騰から計画を中止。

 コンコルドの方へ乗り換え、完成させた。

 その日本が、更なる資金援助で作り上げたのが、太平洋横断飛行型、パシフィックの頭文字Pを取った航続距離延長型だ。


 当初は大西洋横断機として開発されたが、燃料搭載量の少なさから航続距離が短く、太平洋横断は無理だった。

 しかし、燃料タンクを増大させ、旅客数を少なくして延長し、東京~シアトル間を無着陸で飛行できるタイプを開発した。

 旅客数が少ない分、搭乗券は高価だった。

 しかし、今までの半分の時間で太平洋を横断できることから、時間の節約に使えるとビジネスマンに好評だった。


 特に貿易摩擦があるとはいえ、いや、摩擦があるからこそ日米の貿易は活発であり、太平洋を年中横断するビジネスマンが多く、飛行時間の短縮を願っていた。

 そのため、コンコルドP型の就役は歓迎された。


 当初、三機のみ導入予定だった日本航空は、就役前に大手商社に座席を押さえられたことから商機を見出し、三倍の発注数を新たに出し、航路も東京、シアトルの他、サンフランシスコ、ホノルルにも就役させた。

 これは大当たりとなり、更なる発注を進めた。


 コンコルドを気に入った日本は、最大限に活用するべく世にも稀な軍用型を発注し、第二特別航空輸送隊に配備した。

 アジアの要として、国際問題が起きた時、日本政府から迅速に人を派遣できるようにと配備された。

 だが、東南アジア方面は滑走路が短いこともあり使用が限られ、もっぱら三六〇〇メートル以上の滑走路を持つ空港の多いアメリカ方面で使われることが多かった。

 成田空港に配備されたのも、成田が超音速旅客機に対応するため四〇〇〇メートルの滑走路を有しているのが理由だからだ。


 事実上、対米交渉用だが非常に重要であり、緊急に備え成田空港に最低一機が即時発進できる態勢で待機しており、緊急輸送に活用されていた。


コンコルドP型

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093088424705500


 このとき、佐久田の乗った機体はその能力を最大限に発揮して太平洋を通常の半分の時間で横断した。


「乗り心地も悪くはないな」


 機内で寛ぐ佐久田は満足していた。

 通常はエコノミー並みの狭さだが、乗客は随員を除けば佐久田一人のため、機内は広々としている。

 窓が小さい――超音速飛行時の空気の摩擦で高温となり、膨張して破壊するため大きなガラスが使えないためだ。

 だが、高度一万四〇〇〇メートルの成層圏からの眺めは、地球が丸く見えるため、宇宙船に乗っているようで嬉しい。


 米本土に近付くと、亜音速に減速し在米日軍所属の空中給油機が給油を行い、太平洋横断で空になったタンクに補充する。

 軍用機として改修された理由には、空中給油装置の増設も含まれていた。

 当初は超音速機など不要という議論もあったが、付けておいて本当に良かったとしか言いようがない。


 この後は、米本土を亜音速で飛行する。

 衝撃波による騒音公害のため、米本土上空では超音速飛行が禁止されている。

 しかし、超音速太平洋横断で短縮し、無着陸で移動したため、八時間でワシントンのダレス国際空港に着陸した。

 そのままヘリで移動し、ホワイトハウスに佐久田は入った。


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