ロナルド・レーガン
「日韓の不幸な衝突は知っている。アメリカとしても可能な限り両国の間を取り持とう」
到着するなりレーガン大統領は佐久田にそう言った。
俳優ながら赤狩りの時、率先してハリウッドの共産主義者をつるし上げ、名を上げ名作で主演を演じて国民的名声を獲得し大統領になった人物だ。
確かに、見栄えがする人間だが、演技力で偉大に見えるところがある。
しかし、実力も十分に備わっている。
特に人を見る目が確かで、周囲のブレーンが優秀な上に、レーガン自身が彼らの意見を蔑ろにしない。
それだけに厄介な相手だった。
「どうにか矛を収めてくれないだろうか」
韓国が五月蠅く言ってくるので日本に退いてくれないかということだ。
勿論佐久田は拒絶する。
「先に手を出したのは韓国です。韓国が退くべきです」
「韓国は独島は古来よりの領土であり併合時に奪われたと主張しているが」
「竹島は日本が領有した領土です。世界各国が領有していないことを確認した上で1905年に島根県に編入しました。世界各国はもちろん、当時の韓国、大韓帝国も異議は申し出ていません」
「しかしこれほどの事態になるなら多少の譲歩はよいのでは」
「国権に関わる事です。多少でも毀損することは出来ません。それはアメリカも同じであるはず」
「確かに領土を攻められたら防衛するな」
「今回はアメリカの国威に対する挑戦でもあります」
「こじつけではないか?」
「いいえ、我が日本はサンフランシスコ講和条約で本土を除く植民地を放棄しています。竹島はその中に含まれていません。それはアメリカも承知して調印したはずです」
「ふむ」
条約を締結したからには、双方が守る事が信義だ。
第三国が挑戦してきたら共同して対処する。
「サンフランシスコ講和条約で日本の領土が確定したことを認めたはずです。それを蔑ろにするのはアメリカが条約を守るつもりがないと解釈しても宜しいでしょうか」
痛いところを突かれてレーガンは一瞬黙り込んだ。
アメリカが調印した条約であり、日本の植民地放棄を求め、日本本土のみ領有することを明記している。
裏を返せばアメリカは日本の領土は日本本土だと認めている。
日本の本土が侵略されれば相手を非難しなければならない。
「しかし竹島、韓国の言う独島は条約に明記してなかったはずだが」
条文の曖昧さを利用して促してみた。
「竹島は日本の島根県の国土です。是が非でも守り抜きます」
佐久田、いや日本の意志が硬いことは中曽根の記者発表から分かっていた。
日本は専守防衛だが、攻められたとき勇猛果敢に反撃する。
極東戦争で大いに見せて貰った。
そのことを認めないのは韓国だけだ。
だからこの紛争を始めてしまったのだろう。
「それともメキシコからカリフォルニアとテキサスの返還を求められたらアメリカは認めるのですか」
テキサスを巡る戦いでアメリカはメキシコに勝利しテキサスとカリフォルニアを手に入れている。
現在は合衆国の一員として加わっており、今更返還要求など出されても出来ない。
「よく分かった。だが米国としては西側の盟主として仲介を務めるしかない。米国が被害を受けなければ」
どちらにも肩入れできない。
米軍を双方の国に派遣しているだけに余計に無理だ。
そして米軍に被害が出ない限り、片方に肩入れしない。
「分かりました。ですが、韓国との戦闘状態に入れば、東側の動きが活発になるでしょう」
「憂慮する事態だ。そうならないために平和的に解決して欲しい」
「勿論です。しかし最悪の状態も考えるべきでしょう」
「最悪?」
「はい、日本と韓国が戦争を始め、東側に動きがあったとき、攻め込んできた場合です。内紛を利用して攻め込むのは古今東西良くある事例です」
「その通りだ」
「西側が攻められたときに備えて、米軍が展開するのは必要でしょう。日本は米軍に他の基地への配置を許すことを確約します」
佐久田の言葉にレーガンが顔を引きつらせた。
米軍を対韓国軍用の基地に展開させ弾よけにするつもりだ。
そして、米軍が攻撃されれば自動的に参戦されるに仕組んでいる。
策士である事にレーガンは舌を巻いたが役者で培った演技を使い表には出さない。
「それこそ同盟国の鑑だ。前向きに検討させて貰う」
日本の基地が使える事は嬉しいが、アメリカが巻き込まれるのは勘弁願いたい。
危険を避けるため、言質を与えないようにした。
「アメリカは日本に可能な限りの援助を行う。だが米国が世界が求めるのは平和だ」
「その言葉だけで十分です。ですが韓国が侵略を止めない限り、日本は自衛権を行使します」
「当然の権利だな。国家には自衛の権利がある。侵略をはねのけるなら構わないし協力する」
「そこで、行って貰いたいことがあります」
「何かね」
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