全大統領の決心
「諸君! 機は熟した!」
部下の前で全大統領は叫んだ。
北日本との交渉がうまくいかなかったときは、罵詈雑言をわめいたが、直後に人民軍の発表と演習が開始された。
それに合わせた東京の動き、そして北海道への兵力集中を見て、全は北日本、豊原の政府が韓国に協力したと考えた。
東京は兵力が減少しており、独島近辺には即応できるだけの兵力はいない。
機動戦力である信濃は傷付いており、一隻は改修中でドックから出てこれない。
稼働できる空母はペルシャ湾にいて、一か月以上は帰ってこられない。
これ以上の好機はない。
そして、ここまで来てしまっては引き返せない。
このために、時間も金もつぎ込んできたのだ。
今見逃したら二度と機会はない。
部下たちの信頼も失うと考えていた。
全は、短期間にすべてを完遂すれば東京が介入する間もなく勝てる、独島を奪回し既成事実化できると思っていた。
「直ちに作戦を発動せよ」
だが、幕僚たちは勝ち目がないと思っていた。
しかし、命令に従わなければ処罰される。
それに、日本を相手にするのに勝てる状況など今をおいて他にはない。
圧倒的な戦力差があるが、日本への敵愾心を植え付けられている彼らにとって、日本に痛打を与えられるのは気持ちのよいことだった。
だからこそ消極的だったが、命令に従い行動を開始した。
「韓国政府は、日本が不法占拠している韓国領土である独島を無条件で返還することを求める」
青瓦台の報道官が竹島返還要求を発表すると、日本側は困惑した。
これまでも同様の要求がされていたが、韓国の外交戦術であると考えており、重視していなかった。
最初は驚いたが、当然のことながら日本は拒絶する。
「予想通り日本は拒絶しました」
秘書官は暗い顔をして答える。
烈火のごとく全大統領は怒ると予想していたからだ。だが、意外にも大統領は満足げに笑っていた。
「日帝が頑ななことなど当初から私は分かっている。そのために計画を立てている。むしろ、日帝が自ら罠にはまりにゆくとは愚かで見物だ」
あざ笑うかのように話した後、全大統領は軍情報部に命じて計画を開始した。
東京が韓国政府の提案を拒否したことが報道されると、韓国各都市で抗議デモが行われた。
各都市で数万、首都ソウルでは十万を超す市民が日本政府の決定に抗議した。
当初は韓国特有の水増しとも考えられたが、事実だった。
通りを埋め尽くす市民の数はすさまじく、インパクトがあり、日本では連日報道された。
左派のメディアは韓国の言い分に理解を示し、大戦前の侵略主義の精算を行うべきとの主張がなされた。
「動きがおかしいな」
情報分析を行っていたキャプテンがテレビの放送を見て疑問を呈した。
「どうしてですか?」
「市民の寄せ集まりなのに、歩調が取れている。まるで軍隊だ」
「韓国は徴兵制を敷いています。自然と揃ってしまうのでは?」
「それでも統制が取れすぎている。集まったとは思えないぞ」
「つまり?」
「本物の軍隊だろう」
キャプテンの指摘は当たっていた。これは韓国政府による官製デモだった。
予備役に密かに招集をかけてデモを作り出した。
韓国の世論を反日に向けるためだ。
また、国際社会に韓国の怒りと韓国国民の声をアピールするためである。
「まずいな」
「所詮韓国の独り言ですよ」
「連日繰り返し報道されると、世界が認識してしまう」
かつてナチス・ドイツは、繰り返し報道や宣伝を行うことで政権を獲得した。
韓国政府も海外メディア、特に米国や英国の報道各社を招き、世界にアピールしていた。
デモ隊は街道を練り歩き、日本関連の建物、日本の商社、さらには大使館や公使館など在外公館まで取り囲み、一部では投石さえ行われた。
これは在外公館の安全を保証するウィーン条約違反であり、日本は猛抗議した。
だが、韓国側はかたくなに「韓国の主権を侵害し居座る日本に非がある」として取り合わなかった。
行動はさらにエスカレートし、韓国全土に広がった。
さらには韓国の外でも、漁船を使って独島を奪回しようと主張する団体が現れ、実際に海へと乗り出そうとしていた。
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