北日本の行動

 国力の負担になる長期の演習を提案した小柴の目論見を二人は察していた。

 だが、話を続けさせた。


「このところ統一への気概を失っていますので人民軍の引き締めを行いませんと。これも我が共和国の統一のためです。その結果、傀儡共が北海道に、竹島の近くの兵力が少なくなり韓国が有利になったとしても、韓国がどのように解釈しようが我々には関係ありません」


 フォークランド紛争でもアルゼンチンが全兵力を投入できなかった理由に、隣国チリの存在があった。

 長年対立していたため、チリ国境の部隊をフォークランドへ転換できず、多数の主力を有していながらイギリスに敗北ししてしまった。

 東京政府の場合、人民共和国を決して無視できない。

 人民軍が動員演習を行えば、必ず対抗して北海道に兵力を展開。

 そこから動けなくなる。


「なるほどな。韓国に何ら言質を与えず、有利な状況を作ってやるという訳か」


 もし韓国が、「北日本が約束違反した」と喚いたとしても、協力した事実は無いのだから、戯言で片付けられるし、情報操作も簡単である。

 むしろ、韓国を追い詰める材料となり、竹島を占領しようがしまいが韓国の外交的な汚点になる。

 東京にも韓国の侵攻を許したと非難キャンペーンも出来る。

 祖国統一の大きな切り札になり得る手だ。

 桃畑はやる気になり身を乗り出し、小柴にもっと続けよと促す。


「韓国への返答は、傀儡が我が国の敵であり、打撃を被るのは歓迎するが、日本の領土を奪うことは決して許さない、と伝えましょう。もちろん口頭のみで。直後に人民軍に<解放>のベトナム寄港、東南アジア巡航、そして大規模演習実施を発表させれば、あの韓国ですから都合の良い様に解釈するでしょう」


 人民軍が発表すること、外務省の発表でないことがポイントだった。

 北の正式な外交方針でないことを世界にアピールできる。

 誤解するのは韓国だけだ。


「良いだろう。小柴の提案に乗ろう。川勝、と言うわけだ」


「……分かりました」


 国家主席の命令では断れない。

 川勝は韓国の特使に伝えると共に、人民軍の公式発表がなされた。


「帰還中の共和国海軍の戦艦<解放>は友好国であるベトナムに寄港。その後、東南アジアを巡航し諸外国と友好関係を高めるため各港に寄港する。また、人民軍は祖国統一のため大規模演習<統一>を実施する。予備役を動員する大規模にして実戦的な演習であり、期間は二ヶ月を予定している」


 日本人民軍の発表を聞いて、例のない演習規模に各国は驚いた。

 この発表に東京の日本政府は直ちに反応した。

 大和の東南アジア巡航と、演習に備えて北海道周辺への部隊展開を行わせた。

 武蔵は、被弾しているが思ったほどの損害では無かった。

 このことはベトナムへの寄港で、外国記者や西側の報道関係者を含め一般開放されたことからも知られた。

 外側から見るとミサイルの破壊力が凄まじい事が分かるが、艦内のバイタルパート――重要防御区画に入ると傷一つ無く、平穏な艦内生活を営めていることに見学した人々が驚いた。

 これが第二次大戦から数多の戦果を挙げ、勝利してきた伝説の戦艦の内部であり、防御力の強さかと、見学者たちは、武蔵がこれまで生き延びてきた理由を実感し、最強であることを再認識した。


 驚いた東京は直ちに、帰還中の大和を東南アジアへ寄港させ、武蔵を牽制すると共に、同様の戦艦が存在することを示そうとした。

 そのため、大和の日本帰還は遅れることとなる。

 また、北海道を含む人民軍の大規模演習も無視できなかった。

 古今東西、陸上部隊の戦争準備は莫大なものであり、容易には集積できない。

 それを大規模演習と称して隠し、奇襲開戦した事例は多い。

 東京もそれを理解しており、大規模な侵攻、武力統一までとは行かなくても実効支配領域の拡大のために攻撃がありうると考えていた。


 対抗するべく、国防軍および自衛隊に動員が掛かり、多数の部隊が北海道に集結した。

 動員元は北海道以外の地域、特に戦場とは想定されていない関西、中国、四国、九州である。

 機動力のある航空および海上戦力は、移動が顕著であり、すぐにいなくなった。

 陸上の兵力も、人員は開通した新幹線を使い、迅速に北海道へ移動してしまった。

 結果、日本の南側、韓国付近の兵力が減ることとなった。


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