北日本の思惑
「どうしますか?」
極秘裏に接触してきた韓国への対応を、日本人民共和国外務大臣の川勝は桃畑国家主席に尋ねた。
あの極東戦争で人民を無益に殺したという大義名分でクーデターを起こし、当時の首相佐脇を拘束。
即決裁判で機関銃の掃射により処刑して以来、桃畑が北日本のトップに立っている。
その独裁権限は強く、いくら外交分野の責任者である川勝でも、いちいちお伺いを立てなければならない。
いや、桃畑の思いつきを実行するように強要されているのだ。
断れば、機関銃までとはいかないが、豊原郊外の国家保安省の刑務所で銃殺されるだろう。
せいぜい、自分から提案を行い桃畑を少しでも良い方向へ誘導するだけだ。
「独島というのは竹島のことだろう。日本の領土を奪うことに手を貸せるか」
粗暴な桃畑だが、案外頭が良い。
日本と言っているが、実際には「俺の」と言い換えているにすぎない。
だから韓国に奪われることを許すわけは無かった。
「同感です」
川勝は追従し、内心で安堵した。
もし北日本が韓国の暴虐、国際法違反の武力による現状変更を行えば、国際社会からの非難を浴びる。
それどころか、小島とはいえ日本の領土を自分たちの利益のために外国へ差し出したことがばれれば、日本国民からそっぽを向かれてしまう。
統一を目指す北としては、決して認めることはできない。
今回は旨く躱すことが出来たと川勝は安堵した。
「いえ、協力して良いでしょう」
だが、反対する人間がいた。
川勝は内心では怒鳴り上げたいが黙っていた。
桃畑以上にやっかいな人間だからだ。
「どういうことだ?」
黙り込む川勝に代わり、桃畑が国家保安省、北日本における治安・情報部門のトップ――北日本の独裁、恐怖政治の元締めである小柴に尋ねた。
「米帝の傀儡政権も、韓国も我らの敵です。敵が潰し合うことに」
「しかし、発覚したとき致命傷になる」
川勝は反対した。外交は現実であり、共産主義の無謬性などとうの昔に捨てている。
失敗した場合のことも考えなければ、あの大日本帝国のように無謀な戦争に突入してしまう。
発覚して北日本への信頼が損なわれ、豊原が日本の領土を外国に売り渡したと知れば、日本国民は怒り離反し、統一の機会などなくなる。
仮に統一しても、豊原の正統性、日本を統治出来るとは思われない。
小柴は国内、自分の情報統制が効く北日本領土内を想定しているのだろうが、海外まで手を伸ばして情報操作を行うなど不可能だ。
しかし、小柴もそのことは承知の上で、それ以上の計画を持っていた。
「なに、協力しなければ良い。ただ、韓国にとって都合の良い状況を作り出してやれば良いだけです」
「どういうことだ?」
「帰還途上の<解放>をベトナムへ寄港させます。同時に東南アジアの諸国を巡行させるのです」
「<解放>は被弾、損傷しているのだろう」
武蔵、いや<解放>は北日本の象徴であり軍事力の一翼を担っている。
傷付いた姿を見せれば、北日本の国威を落としかねない。
桃畑はその一点を憂慮した。
「損害は軽微で航行可能と聞いています。むしろ、あれだけの攻撃を受けても航行・戦闘が可能な<解放>の堅牢性を世界に示す好機でしょう」
「なるほどな。だが、それが韓国にどう有利になる?」
「<解放>を止められるのは傀儡の大和のみです。当然ベトナム沖、東南アジアへ留め置くことになるでしょう。韓国が動きやすくなります」
「確かにな」
武蔵、いや<解放>に対抗できるのは大和だけ。
大戦から四〇年近く経っても変わらない世界の常識となりつつあった。
実際、大和は<解放>に対抗するような配備と任務に就けられており、張り付けられていた。
大和が離れるのは<解放>がドック入りするとき、長期間の改修で予備艦となったときだけだ。
東南アジアに<解放>が残れば必ず大和も残る。
「我が国が<解放>を何処へ向かわせようと我が国の勝手です。さらに、統一のための実践的演習を長期間、そうですね、二ヶ月ほど行いましょう」
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