韓国軍の増強と独自戦力
全が大統領になってから、韓国は海軍の近代化を進めていた。
朴正熙の時代より軍備の国産化を推進し、駆逐艦やフリゲート艦を国内で建造することができるようになった。
それが全大統領のもとで、独島奪還を決めたことを機に急速に進展していった。
艦艇の生産ペースが速まり、次々と就役していく。
しかし、潜水艦だけは高度な技術が必要なため、軍事機密の固まりであり、生産は難航した。そのため韓国は、ドイツから209型潜水艦を購入することにした。
ドイツは第二次大戦でUボートを多数運用し、連合軍を苦しめたことから、潜水艦の保有には厳しい制限があった。
しかし、輸出用ならば制限が緩和される上、需要も高かった。
1960年代、米英が第二次大戦中に建造し、戦後に大量に余った潜水艦群が寿命を迎え、更新が必要な時期に差し掛かっていた。
だが、主要海軍国の新型潜水艦は大型で、導入や運用コストが高く敬遠された。
このため、バルト海での行動に限定され、比較的小型だったドイツの潜水艦が注目を集め、輸出されることとなった。
その数は十四カ国五十隻以上にのぼり、ライセンス生産も行われるなど稀に見るベストセラーとなった。韓国にはその中の六隻が輸出され、全大統領の一言で受領が早まり、1981年中に全ての潜水艦を受け取った。
しかし、就役した全ての艦が郷土予備軍海軍部門に配備されたことが波紋を呼んだ。
最新鋭艦を韓国海軍ではなく郷土予備軍に配備するなど、前例がなかったためだ。
就役したばかりの艦を即座にドック入りさせるようなものだ。
そのため、配備された潜水艦に問題があるのではないかと一部では噂された。
「沿岸部の防衛のため、陸上の郷土予備軍と連携する必要があり、適正な配置である」
韓国海軍広報官はそう説明したが、誰も信じなかった。
単独行動が基本の潜水艦が陸上部隊と連携するなど、通常あり得ないことだからだ。
さらに、就役したばかりの蔚山級フリゲートも郷土予備軍海軍部門に配備され、韓国がおかしな行動を取っていることがますます明白となった。
また、オーストラリア海軍から退役した空母メルボルンを購入し、李舜臣――文禄の役で秀吉の軍勢を撃退した提督――の名前をつけたことも不安をあおった。
スクラップとして売りに出されていたが、北中国が購入しようとしたことが問題だった。
北中国が空母技術の窃取しようとしていると西側は見ており、売却を邪魔しようとした。
韓国が取得したのは、西側に安堵を与えたが、改修の上、運用すると聞いて韓国への疑念が深まった。
半島で沿岸作戦が有効だとしても、韓国が必要としているのは北朝鮮の大軍を抑える陸軍兵力であり、空母など不要だからだ。
それでも韓国海軍は空母導入を進め、エグゾセミサイルを装備したシュペルエタンダールを艦載機として購入した。
さらに、空軍部門でもF4ファントムなどを郷土予備軍空軍部門に移管していた。本当はF18やF16を望んでいたが、予算問題や韓国の動きを怪しんだアメリカにより断られてしまったのだ。
東側から購入するわけにはいかず、アジアで流行の日本製の優秀で安価な航空機購入も半日のため選択肢には入らない。
やむを得ず、フランスからシュペルエタンダールを購入し、郷土予備軍空軍部門に配属した。
「日本の錬成を担当する自衛隊と第一線の国防軍と同じ措置をしているだけだ」
報道官はそう説明し、錬成期間を確保するための必要な措置であると重ねて伝えていた。
「作戦は順調だな」
思い通りに進んでいることに全大統領は喜んだ。郷土予備軍海軍部門に最新鋭艦を配備するのは国民の支持を得るため、そして日本から竹島を奪う――いや、独島を奪回するための作戦の一環だった。
空軍部門も同様で、韓国が自由に航空機を扱えるようにすることが目的であった。
これで米韓連合司令部を越えて、陸海空の部隊が韓国政府の命令で行動することができる。
海に浮かぶ孤島である竹島――いや独島を占領、韓国的に言えば奪回するには陸海空の戦力が必要だ。しかし、部下たちは首を横に振った。
「ですが、日本の戦力は圧倒的です。特に空母と大和が脅威です」
韓国海軍の艦艇を全て集めても、大和一隻に勝てるとは思えない。
空母の戦力も加われば、絶望的な戦力差だ。
「日本の空母は圧倒的です。島を巡る争いでは空母の有無、その航空機の活用が勝敗を決します」
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