イランへの制裁軍事作戦
「イランへの航空攻撃を行う」
ブリーフィングルームで上原の言葉にパイロットの間で緊張が走った。
イラン空軍は規模は小さいが、戦争中で技量が高くなっている。
対空ミサイルも十分配備されておりやっかいな相手だ。
先程の戦闘でそれは十分に証明されていた。
そんなことは、上層部も承知だろう。
だが、軍事作戦を行うだけの理由が発生していた。
「ホルムズ海峡イラン側海岸に機雷放出設備と対艦ミサイル部隊が配備されている。ホルムズ海峡を封鎖されればペルシャ湾のタンカーは航行出来ず、石油を輸入することは出来ない。安全の確保のために制圧する」
「先の戦闘による影響ですか」
「そうだ」
上原は認めた。
先程の衝突、梶谷が巻き込まれた空戦に、国際市場が敏感に反応し、石油価格が上がり始めている。
産油国、戦費が必要なイラン、イラクにとっては嬉しいことだろう。
だが、消費国である日本、西側諸国には大打撃だ。
ヨーロッパ、アジアの経済発展のため、市場確保、購買力のある消費者を減らさない為にも石油価格は低いままにしたい。
アメリカも西側諸国の為に、石油価格を低く抑えるため、作戦を決定し日本、中華民国、台湾など東アジア諸国に協力を求め、合意していた。
「経済の為に俺たちが犠牲ですか」
「そうだ。俺たちの飛行機の燃料も中東から来ている。高すぎて燃料が減って飛べなくなるを防ぐ為だ」
オイルショックで一バレル三〇ドル台となっている原油価格に各国はダメージを受けている。
以前は一バレル数ドル以下、ミネラルウォーターより安い価格で石油が買えたが、中東戦争が全てを変えた。
イスラエルを支持する国々に石油の輸出を禁止、あるいは高額で売り払うことで中東諸国への支持を増やそうとした。
おかげで燃料が高くなり経済成長が停滞。
航空隊の訓練も燃料不足により飛行時間を抑えられた。
更に燃料費の増大、エネルギーコストの増大は景気後退の要因になるとして株の売りが殺到し株式市場は大きく下落していた。
「これ以上の石油価格上昇を防ぎ、経済を守る為にもイランの計画は防がなくてはならない。俺たちはそのために来ている。ニミッツも作戦に加わる」
イーグルクロー作戦、テヘランのアメリカ大使館人質救出作戦が失敗して以来、イランへの攻撃を控えていたアメリカが攻撃に加わるのは珍しい。
レーガンに変わってから方針を変えたようで積極的だ。
「作戦は次のように行う」
下達された作戦は簡単なものだった。
トムキャットが上空を制圧し、F18ホーネットが攻撃を行う。
安全が確保されてところで、大和以下の水上打撃部隊が艦砲射撃を行う。
万が一、打ち漏らしたミサイルがあっても戦艦なら耐えられる、最悪タンカーの盾になれると考えての事だ。
「また大和が前に出るのか、専守防衛も程があるな」
大和ほど日本に向いた艦は無かった。
攻撃を受けてもちょっとやそっとでは沈まない。
被害を受けるだけの攻撃を受ければ、専守防衛の先、反撃が出来る。
いわば、囮のような役目だ。
それでも国民の財産を守るためなら非常に有効な使い道と言えた。
国民のことを顧みず、国を滅亡に向かわせるなど馬鹿げた行為だ。
今回の軍事行動も石油という国民のエネルギーを確保するために必要なことだった。
「各自直ちに準備を始めるように。油断するなよ。相手もトムキャットを持っている」
イラン空軍が手強いことは先程の戦闘で全員が理解していた。
部品が手に入らないため稼働率低下、性能低下が起きていると言われていたが、戦闘記録を見る限りそのような事は無い。
「キャットファイトだが、自分の命がかかっている。決して油断も容赦もするな」
「お隣はどうするんですか?」
梶谷は尋ねた。
お隣とは共同作戦を行うニミッツではない。
ベトナムという経由地が出てきて、海軍基地を建設し、インド洋へ艦艇を展開させ始めたソ連海軍と東側陣営、北日本と満州帝国の連合艦隊だ。
中でも武蔵が半ば無理をして派遣されていることが気になっていた。
表向きには、ホルムズ海峡の安全確保と東側タンカーの護衛だ。
大慶やオハ――北日本建国時スターリンがなぜか北樺太も北日本の領土に加えた――の油田で十分に燃料は確保されているはずなのに、どうしてか艦隊を派遣していた。
西側ではインド洋、アフリカでのソ連、東側の影響力を高めるための行動ではないかとされていた。
「気にしなくていい。連中もこちらが攻撃しない限り攻撃しない」
アメリカと対峙しているがイラン、イスラム革命への警戒心がソ連は無宗教であるが故に強い。
そのため、イランの隣国にあるアフガニスタンの親ソ連政権を守るためアフガニスタン戦争を起こしてしまった程だ。
「むこうは挑発行動など取らないはずだが、出てきても決して相手にするな。こちらから手を出すなどもってのほかだからな。何か他に質問は?」
全員黙ったままだ。
「無ければ作戦開始だ。出撃!」
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