イランイラク戦争
海猫05
「やっぱり違うな」
ブリーフィングルームを出て飛行甲板に上がった梶谷は、外の空気を吸って微妙な違和感を感じた。
意外と繊細と思うかもしれない。
だが、航空機は空気の状態で飛行性能が左右される。
空気密度が高ければ揚力が増えてよく飛ぶが、低ければ揚力が足りず落ちてしまう。
エンジンの燃焼状態も変わるから、微調整のやり方も、少し増すか減らすか予め考えなければならない。
一応ブリーフィングで予報は出され飛行プランも気象状態に従って出されている。
だが、実際に飛ぶのは梶谷たちパイロットであり、自ら待機状態を確認しておきたい。
それだけに、パイロットである梶谷は空気に敏感だ。
大分慣れてきたが微妙な違和感を感じ続けている。
ベトナム沖の暑く湿った空気よりも乾いていて良いが、どうも好きになれない。
「乾きすぎだ」
空気密度が低く、飛びにくい。
しかし、命令であり飛ばなければならない。
何より梶谷はパイロットだ。
空を飛べる機会を失いたくない。
飛べるなら、飛ぶのだ。多少気が乗らなくても空を飛べば幸せだ。
少し命がけの飛行となっても。
梶谷は自分の愛機にペアと共にラダーを登り乗り込んだ。
席に着くとベルトの固定を確認し機器の操作を始める。
発艦前のチェック、オールグリーン。
機付長に感謝し離れるとキャノピーを下ろす。
自分が準備している間に、機体のチェックを終えた整備士が全員退避した。
誘導員に従い艦首のカタパルトに向かう。
ロック装置に前脚をはめ込み、整備士が最終チェック、武器類の安全ピンを全て引き抜き、使える状態にする。
重量453キロ、射程180キロ、購入価格47万ドルのフェニックスミサイルも安全ピンを抜き忘れたらただの鉄くずだ。
抜き忘れがないか、整備士はチェックし、全てのピンが手中にあることを確認して離れる。
全てのチェックを終え、再び整備士が離れる。
退避完了を確認した発艦士官が梶谷へ指示を送ると共に、梶谷は左手で握ったスロットルを押す。
二基のゼネラル・エレクトリック F110-GE-400 ターボファンエンジンが凶悪な咆哮を上げ、出力全開にして120kN以上の推力を出す。
発艦士官に準備完了の合図と、人差し指と中指をクロスさせた非公式の敬礼を送り、発進位置に傾けた座席に背を預けた。
次の瞬間、カタパルトが動き出し、挟み込んだトムキャットの前脚を引っ張り、わずか2秒で100キロ以上に加速する。
最終的に30トンもあるトムキャットを2秒ほどで離陸速度まで引き上げ、洋上、空高くへ送り込んだ。
母艦から離れると軽く操縦桿を捻り旋回。
続いて発艦した僚機が付いてきていることを確認。
異常が無いか確認し、通信を入れる。
「こちら、海猫05。発艦した。異常なし」
「こちらリンデンホーム。海猫05、了解。これよりイーグルアイのコントロールに入れ」
いつもなら海鷹、空母所属のE2Cの指揮下に入り空母から280キロの地点で哨戒飛行を行う。
だが今回の作戦は違う。
別の早期警戒機の指揮下に入る。
異例だが既に上層部、それも政府首脳が合意しており、作戦規定上そうなっている。
梶谷たちは従わなければならなかった。
「海猫05了解、飛行規程に変更は?」
「無しだ」
梶谷はため息をついた。
もしかしたら、と思ったが、相変わらず制限が多い無理難題をふっかけられるようだ。
「リンデンホーム、こちら海猫05了解。帰ったらご馳走を頼む」
「お使いの間はタンカーからおっぱいを貰え」
空中給油は滞空時間が増えるが着艦までの時間が延びることになるためパイロットには堪える。
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