大和被弾

 主砲とはまた違った噴煙、派手なロケット燃焼を起こして飛び出していく姿は、火山の噴火を思わせた。

 中央構造物を中心に搭載されたターターのランチャーから次々と発射される。

 大和は巨艦の上、空母のように甲板を平らにする必要がなく、誘導装置の設置が自由で、数が多い。

 先の被弾による損傷の復旧と同時にターターミサイルの装備も行われた。

 ターターが高価なため、大蔵省の小言、いや予算上の制約で八基しかランチャーを搭載できなかった。

 だが、全周囲から殺到するミサイルを相手にするには十分だった。

 放たれたミサイルはイルミネーターの誘導に従い、目標へ向かっていく。


「ミサイル迎撃中!」


 数が多い分、撃てるミサイルも多い。

 十数発のミサイルを撃墜した。


「残存ミサイルなお接近します」


 だが、向かってくるミサイルの数は、対応可能な数を超えていた。

 十数発が迎撃し損ない、内八発が大和に向かっていく。


「五インチ砲! 射撃開始します!」


 搭載された五インチ自動砲が発砲を開始する。

 さらに、接近すると三インチ自動砲が加わり弾幕を張る。

 だが海面すれすれに飛び込んでくるミサイルには不十分だ。

 シースパローを放つが、海面の反射を捉えてしまい、命中率が低い。

 近接信管付きボフォース四〇ミリ砲が火を放つが、その内側に入られたら、最早防御手段はない。


「ミサイル四発接近! 回避不能!」


 かつては近接対空火器を装備していたが、人員が足りないし、ミサイルが被弾したとき燃料の火災に巻き込まれ、被害が大きくなることから廃止されていた。


「衝撃警報! 備えろ!」


 砂川が命じた直後、大和は被弾した。

 大和を襲った四発のうち、一発は誘導装置の不調で、大和のスレスレを通り抜け、一発は舷側に命中し爆発した。

 だが、そこは舷側装甲であり、分厚く損傷はなかった。

 もう一発は左舷、高角砲甲板に命中し爆発。

 最後の一発は信管不良で不発だったが、先の被弾から十数メートル離れた場所に着弾。

 残存燃料をばらまき、大火災を発生させた。


「損害報告!」


「左舷甲板大火災!」


「放水開始! 燃料を洗い流せ!」


 だが大和も無力ではない。

 広がる燃料を洗い流すため、スプリンクラーを作動させ洗い流した。


「通信機能および対空レーダーは無事か!」


「機能に支障なし!」


「チェックを急げ! 少しの支障も見逃すな! 艦の損害は!」


「左舷五インチ砲四番大破! イルミネーターが一基やられました」


「よし」


 百発撃たれて被弾が四発。

 防空システムの限界を考えれば、損害は少ない。

 だが砂川の心配はそこではなかった。


「他の艦は、シカゴはどうした。航空作戦は行えるか」


「シカゴ被弾! 三発が命中し指揮能力を喪失しました!」


「やはり……」


 大和が無事だったのは、大量の対空ミサイルとイルミネーターを持っていたからだ。

 だが重巡とはいえ、小型のシカゴでは迎撃は難しい。

 大和でさえ被弾したのだ。

 それでも三発で済んだのは奇跡だ。

 だが、一万トン程度の排水量の艦では防御力は小さく、大損害になってしまった。


「シカゴ、指揮能力喪失。被害甚大のため離脱します」


「作戦司令官ズムウォルト提督より通信、大和にピアズ代行要請が来ています」


「承諾しろ!」


「了解!」


 嫌な予感はしていた。

 北ベトナム沖で、数百機が飛んでいる状況で航空作戦指揮に対応できるのは、ピアズ艦を除けば索敵、通信能力が充実した大和だけだ。


「CDC! 航空管制だ! 味方を指揮管制しろ!」


「了解!」


 できるならやるしかない。

 そのためにピアズの代艦に指定されていた。

 だから通信能力の維持を気にしていたのだ。


「通信能力の維持に全力を尽くせ!」


「敵第二波ミサイル接近!」


「主砲! 対空戦闘! 遠方で迎撃しろ!」


「迎撃していますが、数が圧倒的です! ミサイルが分散してこちらに向かってきています」


 北ベトナム軍は大和を囲むようにミサイルを撃ってきた。

 当然だった。

 大和の三式弾迎撃、一度に大量のミサイルを一網打尽にする戦術を回避するためミサイルを分散。

 全周囲から攻撃するのは悪い手ではない。

 もし砂川が北ベトナム軍の司令官でもそうする。

 対応が非常に困難になるが。

 しかし悪いことばかりがやってくるわけではない。


「F111が来ました!」


「よし!」

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