大和のミサイル迎撃

砂川の号令で直ちに主砲の射撃準備が行われる。


「面舵一杯、ミサイルへの射界を確保します」


「ミサイル急速接近! まもなく射程距離に入ります」


「レーダー連動よし。射撃盤、射撃データ算出中」


「主砲旋回します」


 前方から重い音が響いてくる。三〇〇〇トンの主砲塔が動くのはなめらかであっても独特の重量感がある。


「針路固定! 艦安定しました」


「射撃データ出ました」


「主砲旋回、仰角調整完了」


「信管調定よし! まもなく射程内に入ります!」


「味方戦闘機、砲撃予定空域、射線上に存在せず」


「対空射撃準備完了!」


「砲撃開始!」


「撃ちます!」


 砂川の号令で砲術士がボタンを押すと、数秒遅れて大和が発砲を開始した。

 予め調整された時限信管に合わせ電算機が最適なタイミングで発砲している。

 自動装填装置により一五秒に一度発砲され、次々とミサイルの群れへ打ち込まれる。

 撃ち出された砲弾は所定の時間飛ぶと弾子を吐き出し、大和に向かってくるミサイルに降り注ぎ破壊していく。

 しかし、撃ち漏らしが出てくる。

 逃れたミサイルは、前衛の天津風が迎撃を行う。

 天津風はアメリカから導入したターターシステムを搭載したミサイル駆逐艦だ。

 だが、対空ミサイルシステム導入運用の検証に使う試作艦のため、建造就役は一隻のみ。

 大和被弾の影響で本格的な対空ミサイル駆逐艦太刀風型の建造を始めていたが、まだ艤装中で就役は来年。

 しかし先の戦訓を鑑み、急な作戦参加であったが大和護衛のために天津風には無理に随伴してもらっている。

 その能力は遺憾なく発揮された。

 射程に入った対艦ミサイルを天津風のターターが的確に次々と迎撃していく。  天津風はその能力を十二分に発揮していた。

 が、


「ダメです! ミサイルを迎撃しきれません!」


 圧倒的な対艦ミサイルの乱射を前に、西側艦艇は防空能力の限界を迎えた。

 世界最高の防空システムでも、ミサイルの飽和攻撃に対応しきれなかった。

 ターター対空ミサイルは高性能だが、敵ミサイルを撃墜するまでイルミネーター――誘導装置で誘導しなければならない。

 そのため、一度に迎撃できる数が誘導装置の数に制限されてしまう。

 迎撃できず、ミサイルが次々とすり抜けて大和に向かってくる。


「主砲砲撃止め! 対空対空ミサイル射撃始め!」


 ミサイルがまとまった箇所はあらかた迎撃した。

 主砲でまとめて破壊するには効率が悪い。

 なら適切な武器に変更するだけだ。


「ターター対空ミサイル発射用意!」


 責任を取って臼淵は退役したが、実父のように研究を忘れたわけではなかった。

 特に自らの失態、ミサイル攻撃を受けた原因、対応策を自らさえ研究対象として扱い、区別なく分析・研究を行った。

 そして大和がどのような迎撃システムを装備するべきか考え、日本はもちろん、独自の伝手で米軍の戦例さえ調査して論文にまとめ、関係者に渡した。

 その内容は自らさえ厳しく指弾しており、海自と海軍にも、特に同盟国間の連携能力・システムがないことを糾弾。

 対艦ミサイルいや、空からの飽和攻撃に対する防御が太平洋戦争以降、変わっていないことを痛烈に批判していた。

 一部からは反発されたが、多くは東側と正面から対峙していること、最強戦力である大和が被弾したこともあり、正確無比で現実を書き記した臼淵の論文は真摯に受け止められた。

 同時に内部で進められた対空ミサイルシステム導入の弾みとなり、臼淵の内容を加味して推し進められた。

 その提案の一つが、大和への対空ミサイルの大量配備であり、被弾の修理とともにターター対空ミサイルを装備する改修がされていた。


「イルミネーター接続確認!」


「対空レーダー連携よし!」


「ミサイル発射装置異常なし!」


「ミサイル発射準備完了」


「ミサイル撃ち方始め!」

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