ミサイル飽和攻撃
「目標〇三への艦砲射撃完了」
「副長了解。次の目標へ移動せよ」
「了解! 取り舵五度。針路修正」
砂川は部下の報告を聞いて命令を下し、部下は従った。
国会に召喚されかけたが、臼淵が全ての責任を取って辞任したことで、砂川への処罰は無かった。
砂川はその後、転属したが成績が良く、無事に昇進を果たし、大和副長兼砲術長として大和に戻ってきた。
現艦長は、幕僚勤務が多く、提督への昇進のためにやってきた男で、書類仕事では有能で必要不可欠だったが、実戦指揮や胆力では劣っていた。
だが、素直な性格で砂川が有用だと分かると、砂川に砲撃指揮を全て任せて、自分は艦橋の席から大和の様子を見るだけにしていた。
おかげで砂川は緊張しながらも思い通りに砲撃ができる。
勿論、要請を受けても目標を吟味することには手を抜いていない。
民間居住区へ被害が及ばないよう、砂川は注意していた。
だが、実際の砂川は人一倍責任感が強く、真面目で、二度と同じ失敗をしないように気を遣っていた。
一部のマスコミから前の事件と絡めて、艦砲射撃を行う砂川に「虐殺者」のレッテルを貼って報道している新聞社もある。
任務中の人間に対して、ひどい扱いだと抗議する者は多いが、ベトナム平和運動が広がる中、砂川擁護の声は大きくない。
しかし、味方がいるだけでも砂川は任務に専念することができた。
現在の任務は、発見された北ベトナム軍の対空陣地に艦砲射撃を浴びせることだ。
沿岸部を掃討することで、内陸部へ航空隊を送り込むことができる。
忙しい航空隊の手を煩わせることを少なくしたい司令部の考えによるものだ。
大和も当然のこととして砲撃を行っていた。
幸い、武蔵はドック入りのため、ベトナム沖にはいない。
これ幸いと砲撃できる。
だが、砂川は決して油断していない。
相手が無力でないことは、前の任務の時に身をもって体験している。
だからレーダー手の報告にすぐに反応できた。
「ベトナムの内陸部から多数の飛行反応!」
「対空戦闘用意! 敵味方識別急げ!」
「IFF反応なし! 敵です! 総数が一〇〇を超えています!」
「対艦ミサイルか!」
二年前の70年、ソ連ではオケアン七〇演習が実行された。
九〇秒以内に一〇〇発以上のミサイルが発射された演習で、ソ連のミサイル攻撃能力の高さを見せつけた。
そして、西側の防空システムに対応能力がないこと、一〇〇発以上のミサイルを受けたら防空能力が飽和することが明らかになった。
もちろん西側は、予め対艦ミサイルが運び込まれるのを防ぐため、ベトナム沖で海上封鎖を行っていた。
だが封鎖前に、既に東側の貨物船で満州及び北日本で生産された三〇〇発以上の対艦ミサイルが北ベトナムに運び込まれていた。
そのうち数十発は空爆で破壊されていたが、残りの半数が、一〇〇発以上が打ち出された。
そのミサイル群はシカゴと大和に向かっていた。
艦砲射撃で大和の位置は砲撃によって判明していたし、通信諜報、航空機との無線のやりとりからピアズ艦の存在を北ベトナムは把握しており、攻撃目標に加えた。
大規模航空作戦を実行するには、大編隊を管制できる能力がなければ不可能だ。
灰燼に帰したとはいえ、これ以上の被害を阻止するべく、管制能力の無力化を狙い、ピアズ艦を標的に定めていた。
「直衛戦闘機は?」
「シカゴの防護に向かっています」
「当然だな」
勿論、大和の砂川もシカゴが重要であり、ラインバッカーⅡの航空作戦指揮を行っていることは知っている。
ここでシカゴを喪失したら作戦は大混乱だ。
味方がシカゴの援護に向かうのも仕方ない。
武装が少ない重巡では防御も難しいだろう。
だが、大和は違う。
凶悪なほど対抗手段を保有している。
「対空戦闘! シカゴとミサイルの間に割り込め! ミサイルを通すな! 三式弾装填! 迎撃開始!」
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