戦闘機 対 対空ミサイル

「回避する!」


 上原は機体を急旋回させ、回避機動を行う。

 7Gの加重が上原を襲うが、全身の筋肉を強ばらせ、末端への血流を止め、脳へ送る血液を増やし、ブラックアウトを防ぐ。


「ぐおおおっっっっ」


 暗くなる視野の中でも、上原は向かってくるミサイルを捕らえ続ける。

 思考力が極度に下がる中、逃れる方角を見定め、いや、本能的に嗅ぎ分け、操縦桿に全体重をかけてファントムを動かす。

 フルバーナーで加速し、余計に重くなった翼を動かし、的確な方向へファントムを急旋回――いや、引き倒す。

 極限の状況下で、上原は最善の行動を行い、ミサイルから逃れる。

 上原を見失ったミサイルは迷走し、やがて自爆。

 上原は生き延びた。


「回避した!」


 敵ミサイルの限界――マッハ五を出すための加速により、ミサイルの外板は薄く、急旋回すると自爆するため追って来れない。急旋回で逃れた。

 さらに、敵の照準からも機動で逃れたのも大きかった。


「よし、反撃するぞ!」


 無事に回避した上原は、報復するべくファントムを再び目標――自分を撃ってきたランチャーに向かって旋回しようとする。

 だが、あることに気がついた。


「梶谷はどこに行った?」


 僚機を見失うのはまずい。

 いくら梶谷が卓越した腕を持っていて、必ず帰ってくると信じていても、はぐれるのはだめだ。

 回避のために急機動したが、そのとき見落としたのはだめだ。

 隊長として僚機の動きは把握しなければならない。

 しかし、心配は無用だった。

 それどころか、上原は梶谷を見つけたとき、地上すれすれを飛んでいるのを見てたまげた。

 ただの回避ではなく、上原を狙ったレーダーの方角に向かって一直線に飛んでいる。

 そして目標に近づくと急上昇。

 機体を捻って地上を見渡し、レーダーを見つけると、まっしぐらに急降下してミサイルを発射した。

 ミサイルは狙いを違わず、北ベトナム軍のレーダーに命中し吹き飛ばした。


「あの野郎、俺の獲物を捕りやがった!」


 上原は悔しさをにじませつつも、自分を狙ったミサイルを撃ったランチャーに向かってミサイルを放ち、撃破した。

 二次爆発も起こり、予備のミサイルも破壊した。


「成功したな」


 これで、味方の攻撃隊は無事に攻撃ができる。

 事実、部下たちは慌てて出撃した北ベトナム軍戦闘機隊を捕らえたものの、味方のミサイル部隊が撃滅されたと知ると反転して撤退した。

 味方のミサイルに上原たちを引き込み、共同して撃墜しようとしたのだろう。

 だが上原によって、レーダーとミサイルを破壊され、不利になったと見るや、直ぐに逃げていった。


「追いかける必要はない」


 追撃しようとする部下を、上原は止めた。

 地上からの支援のない戦闘機など脅威ではない。

 むしろ、奥地へ引き込まれ、ミサイルを四方から撃ち込まれるほうが怖い。

 ハノイ周辺の制空権さえ確保すれば目的は達成される。

 余計なことをする必要はなかった。

 やがて作戦通り、機雷敷設任務のA6攻撃機イントルーダーがやってきて機雷を投下し、ハイフォン港を機雷の海にした。

 時限装置により、起動するのは四八時間後となっている。それは、ハイフォン港にいる東側の貨物船を逃がすためだ。

 支援物資を積んでいるはずだが、大半を積み下ろせず、脱出するか、閉じ込められるのを覚悟でその場にとどまるか、彼らは決断を迫られることになる。


「作戦成功。全機帰還せよ」


 攻撃隊長から指示が下り、攻撃隊が引き上げていく。


「俺たちも帰るぞ」


 そして帰投する編隊に続いて、上原たちも母艦に向かった。


「隊長、あれは?」


 だが、その途上で、巨大な翼を持つ機体が上空を通過し、すれ違った。

 梶谷はその機体の姿を見て驚いた。

 だが、上原は腹立たしく睨み付けるように、その機体――成層圏を飛びハノイに向かう翼を見送った。


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