ワイルドウィーゼル
度重なる空爆と迎撃のために北ベトナム空軍戦闘機隊は度々出撃し、撃破され、消耗していた。
ラインバッカーⅠで大損害を受け行動不能となり、ラインバッカーⅡが開始されたとき、その損害は回復していなかった。
東側諸国から援助を受けて戦闘機の補充は受けていたが、足りなかった。
さらに、満州国、北日本、北中国がニクソンの訪問を受け、国交樹立などの交換条件として北ベトナムへの援助停止を求めて各国が受諾し、援助物資の量が激減。
ソ連からの援助を受けていたが、到底量が足りず、稼働機は減っていた。
機体があったとしてもパイロットと整備員が足りない。
特殊技能を持つ彼らは部隊再建の基幹要員となるため、温存せざるを得なかった。
だが、北ベトナム空軍全体は抵抗を止めていない。
パイロットでなくても扱える対空兵器を大量に配備し、待ち構えていた。
中でも脅威だったのはSA2対空ミサイル――NATOコードネーム、ガイドラインは大きな脅威だった。
レーダーと連動して攻撃する防御システムはアイアンハンドと呼ばれ、北ベトナムへ出撃するパイロットたちの恐怖の象徴だった。
しかも最近はグレードアップしたSA3が配備され始めている。
これが残っているだけで、西側の航空作戦は大きな制限を受ける。
北ベトナムへの空爆を行う部隊にとって最大の敵であり、撃滅するためにあらゆる手段が取られていた。
「レイブンがかなりうるさく鳴いているようですね」
色とりどりの情報を映し出す電波受信機を見て梶谷が言う。
EA6やEF111を初めとする電子戦部隊、通称レイブンが北ベトナム軍の電波発信、レーダーおよび無線通信を邪魔していた。
囮もあるだろうが、長射程である故にレーダーで索敵し、電波誘導が必要なガイドラインには有効な防御策だ。
しかし完璧ではない。
「これならワイルドウィーゼルは不要では?」
対空ミサイルを確実に潰すため、アメリカ軍は対空ミサイル対処の専門パイロットを育成していた。
彼らはワイルドウィーゼルと呼ばれ、対空ミサイルを見つけ対処するべく、ファーストイン・ラストアウト――最初に突入し、最後に離脱すると呼ばれ畏敬の念を抱かれていた。
日本でも必要性が認められ、育成が行われていた。
上原と梶谷は技量優秀なことから選ばれ、訓練を受けていた。
そして今、実戦に出ようとしていた。
だがミサイルが見えなくては撃破できないし、北ベトナム側が攻撃してくる気配がない。
「いや、油断できない」
発射不能にしただけでも十分だが、脅威が去ったわけではない。
できれば、ここで潰しておきたい。
「高度を下げて、確認する」
「危険ですよ」
高度を下げれば敵に近づく。
妨害電波の威力が下がり、発見されやすくなってしまう。
「確認には最適な方法だ」
打たれなければいる可能性は低くなるし、打ってくれば逆に撃滅する好機だ。
「味方のためにも手を抜けない」
編隊で飛んでいると下手に回避運動はできない。
隣の僚機にぶつかる危険があるからだ。
だから回避しやすいように少数、時に単機で突っ込みミサイルを撃破する。
危険だが他に方法はない。
「突入!」
上原は緩い螺旋を描きながら、降下していく。
ゆっくりと降りてゆき、敵に狙いを付けさせるためだ。
緊張して冷や汗が流れる。
しかし降下を始めても反応はない。
やはりミサイルはないのかと思っていると、レーダー探知機が警報音を、ロックオンされたことを告げた。
「いやがった!」
ミサイルに狙われる恐怖と見つけた喜びの混じった声を上原は上げる。
「右正面か!」
探知機の方位を見て、機体を翻して急降下。
ロックオンした敵に狙いを定めようとした。
だが、その前に正面から延びる光があった。
「ミサイル!」
敵の方が早く発射し、上原のファントムに迫って来ていた。
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