ラインバッカーⅡ
砂川達の予想は当たってしまった。
和平交渉の席に着かない北ベトナムを引きずり出すため、ニクソン政権は更に大規模な北ベトナム空爆、北爆を考えていた。
ラインバッカーⅡ作戦と名付けられた作戦は、再び日本の空母信濃に出撃要請が出た。
日本政府は安保理常任理事国就任のため承諾した。
しかし他の国は違った。
英仏は流石に遠すぎる上、戦費が出せず、今回は不参加だ。
中華民国は、ニクソンの東アジア訪問と国連でのいざこざから協力を拒否し、出てきていない。
台湾も唯一の空母鄭成功のドック入りで不参加だ。
だが、アメリカは世界中から自国の空母を呼び集めた上、嘉手納、高雄、グアム、タイに空軍を集結。
前回以上の戦力を投入していた。
その中に、信濃の姿もあった。
「今回も攻撃を行う」
信濃の搭乗員待機室で上原が言う。
今回は航空団の飛行長として上原はラインバッカーⅡに参加していた。
アメリカ市場を考えると、さすがに日本は断り切れなかった。
参戦する代わりに、通商交渉で有利な条件、特例を設けてもらえることになった。
兵隊の命で金儲けしているようで腹立たしい。
だが、自分たちの装備が国民の税金、金儲けで得られていることを考えると文句も言えない。
儲けやすい環境を作るために命を張るだけだ。
「今回の目的は北ベトナムの海上封鎖。航空機によって機雷を敷設する。我々の任務は攻撃隊が敷設できるよう制空権を確保することだ」
上原は地図を広げて説明した。
「攻撃隊がハイフォン港に機雷を敷設できるように全て撃墜しろ。地上にいる機体は攻撃隊が始末してくれる。いいな、全て撃墜しろ。これがラインバッカーⅡの概要だ」
72年に始まった北ベトナムの中枢への航空打撃作戦ラインバッカーはⅠとⅡに分かれる。
北ベトナムが和平交渉の席に出ないため、ニクソン政権はキッシンジャーの意見を入れて、無理矢理、交渉の席に付けるべく北ベトナムへの大規模作戦を計画。
それがラインバッカーだ。
ラインバッカーⅠは南ベトナムへの補給路、ホー・チ・ミンルートを始めとする補給路を破壊した。
これまでの制限を撤廃したこともあり、作戦は順調に推移。
ホー・チ・ミンルートを締め上げ、機能不全にする大成果を上げた。
しかし、北ベトナム政府は交渉に出てこなかった。
そこで、更に徹底した打撃作戦ラインバッカーⅡが立案、実行される事になった。
北ベトナム全域を標的とし、主要な港へ機雷を敷設。
海上封鎖と合わせて海上補給路を寸断し、北ベトナムを干上がらせようというものだ。
「しかし、こんなに大規模な作戦をするんですか」
「そうだ」
飛行隊長のため、上原には機密情報を知らされているが、部下には話せない。
万が一、撃墜されて捕虜になった時、話されては今後の計画に支障が出る。
「予定通りにラインバッカーⅡ、作戦開始だ。全機出撃」
今回は更に大規模な攻撃となった。
まず、深夜に大和以下の水上艦部隊が電子作戦部隊の支援を受けて沿岸に接近。
数日前から妨害電波を出し、時間と強度を徐々に伸ばすことで自然現象に見せかけた。
そして作戦当日、大和は電波妨害の援護で接近すると、北ベトナムのレーダー施設に艦砲射撃を浴びせ、完全破壊。
攻撃隊を、突入させることに成功した。
だが、北ベトナム軍もやられっぱなしではなかった。
「連中、内陸部へ対空ミサイルを配備している」
大和の艦砲射撃が届かない、攻撃隊を送っても見張が見つけやすい内陸部に置くことで残存を図っていた。
「こいつらを潰す必要があるな」
「機雷封鎖は上手くいっていますが」
「だが陣地転換されて、送り込まれるのは危険だ」
上原の意見に梶谷は疑問を感じたが黙っていることにした。
「このまま潰す」
「ワイルドウィーゼルですか?」
「そうだ」
飛行隊のパイロットたちが黙り込んだ。
「危険なのは分かっている。なので行うのは私だ」
技量が優れているし訓練の成績が良いことは誰もが知っている。
それでも危険な任務に赴くことに畏敬の念を感じた。
「だが俺だけでは、足りないので、梶谷、おまえにもやってもらうぞ」
「了解しました」
厳しい顔をしながらも梶谷は了承した。
他のパイロット、先輩パイロットより技量が優れている自負があったし、訓練も受けている。
自分がやるんだと梶谷は気負って承諾し、自分の機体へ向かった。
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