ラインバッカーⅠ作戦後

「作戦は上手く、いったな」


 10月になり、ラインバッカーが一段落した段階で各国の艦隊は一度引き上げた。

 信濃もヤンキーステーションから撤収し、横須賀で整備を受けていた。

 久方ぶりに横須賀に戻った上原と砂川は須加を誘って、パインに入って楽しんでいる。


「だが上手くいっていないようだ」


「補給拠点は撃破しただろう」


「ああ、大成功だ。だが、作戦の目的である北ベトナムは交渉の席に着いていない」


 北ベトナム軍の補給網は撃破した。

 軍需物資の大半を焼き払い北ベトナム軍の作戦能力はなくなったと判断されていた。

 しかし、北ベトナム政府の態度は変わらず、和平交渉の席に着こうとしていなかった。


「また出撃するのか」


「このままだとな」


「いつまで続くんだよ」


 半年近く洋上で揺られ、出撃していた上原はうんざりしていた。


「北ベトナムが交渉の席に着くまでな」


「畜生め」


 上原は酒を煽った。

その間にも砂川は思考をめぐらす。

 このまま根気強く攻撃し続けるか、更に効果の大きい目標を叩くかだ。

 攻撃を続けようにも北ベトナム軍の主要な拠点は攻撃し撃破した。

 あとは、戦略的には大きいが、ダメージが大きすぎて敬遠した箇所、政治的効果の大きい場所しか無い。

 なりふり構わないニクソン政権ならば、ここを攻撃すると考えた。




 砂川の予想は当たった。


「日本艦隊に再出撃を頼みたい」


 東京の首相官邸でキッシンジャーは佐藤と佐久田に要請していた。


「さすがに今回は問題でしょう」


 作戦内容を伝えられていた。


「海上封鎖強化のための機雷封鎖だけですが」


 海上封鎖はベトナム戦争当初から行われていた。

 だが、東側を刺激しないため、徹底したものではなかった。

 東側の貨物船、ソ連、東ドイツ、満州、北日本の貨物船、中立宣言をした国々が人道物資を運び込むのを止めることはなかった。

 しかも護衛に<解放>、武蔵が随伴していたら余計に難しい。

 機雷封鎖も東側船舶への被害を恐れ、徹底したものではなく、航路が確保されている。

 しかし、あとのないニクソン政権は徹底した封鎖を決意し完全封鎖することにした。

 そのための作戦に日本に参加してほしいと頼み込んだ。


「そのあとが問題です」


 機雷封鎖程度で北ベトナムが音を上げるとは思えない。

 確かに効果は非常に大きい。

 周囲を西側に囲まれている北ベトナムは満州と北日本からやってくる貨物船の物資で食いつないでいる。

 それが絶たれたらおしまいだ。

 しかし十分な備蓄があるはずで効果がでてくるまで数か月、下手したら年単位で

 大統領選挙が迫っている今、北ベトナムを交渉の席へ着けるため、大きな作戦を考えていた。


「さらにやるのでしょう」


 アメリカ政府ではなく、キャプテンの諜報活動によって得られた情報から、佐久田はニクソンとキッシンジャーがさらに大きな作戦を、影響の大きい作戦を行うことを知っていた。


「そこまでお分かりなら話は早い」


 むしろキッシンジャーは嬉々として答えた。


「ぜひとも参加してほしいのですが」


「この後の作戦は影響が大きすぎます。日本の混乱はまだ続いていますし」


 キッシンジャーの東アジア訪問は衝撃を与えた。

 これまで承認していなかった分断国家、その東側をアメリカが事実上認めたのだから。

 それまで西側各国は東側を不法占拠している集団として認めなかったし盟主アメリカも認めていなかった。

 それをニクソンは覆し、訪問まで行った。

 東アジアの西側諸国、日本、韓国、中華民国には裏切り行為に近い。

 各国内ではアメリカとの関係を見直すべきだという声が大きく、混乱し押さえるのに苦労していた。

 日本も同様だった。


「日本の世論も許さないでしょう。空襲の記憶を日本人はまだもっています」


 更に日本国内でもベトナムへの関与の仕方を考え直すべきだという声が上がっており、前回の作戦も薄氷を踏むような思いでギリギリ通した。

 しかし、作戦が進むにつれて、空爆の被害が報道され、世論の支持は失われている。

 更に作戦を、しかも大規模に続ければ、内閣への支持は失われ崩壊する可能性が高い。


「協力は出来ません」


「安全保障理事会常任理事国の椅子などいかがですか?」


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