北ベトナム空中戦
上原は管制官が指示した方向を見ると、識別表で見慣れた形の戦闘機一六機が飛んでいるのを発見した。
「全機、ロックしてミサイル発射! あとはフルバーナーで接近し撃墜しろ!」
「了解!」
後席のオペレーターがレーダーを操作し、敵機にロックオンする。
「全機一斉発射!」
合図と共に一斉に発射した。
敵機は散開するが、スパローは半分以上が命中した。
残りは逃げようとする。
「第一、第二小隊は突入せよ! 本部と第三は待機!」
八機のファントムがバーナーを全開にして突入する。
ミグは逃げようとするが、追いつかれて攻撃を受ける。
特に梶谷の動きは見事だった。
二機の後ろを取り、一機にサイドワインダーを発射した。同時にバーナー全開で次の目標に接近し、機銃で撃墜。
最初に放ったサイドワインダーも命中して撃墜した。
「すげえ」
あまりの攻撃に上原は感嘆した。そして、油断した。
味方の一機がミグを追いかけ回し続け、後ろに疲れていることに気が付かない。
「誰か知らないが、左後方にミグが付いている! 左旋回して回避しろ!」
上原の命令で第一飛行隊の全機が一斉に左ロールを行った。
ミグを追い詰めていた者もいたが、命には代えられない。
「本部と第三は続け! その間に第一、第二は上昇して待機!」
上原は上空から急降下して、何とか逃れた、あるいは取り逃がしたファントムを追いかけようとするミグの側面に襲い掛かった。
「食らえ!」
スパローは最小射程を割り込み使えない。サイドワインダーも側面のため、排気炎や熱源を探知できない。
なので側面から機銃を放った。牽制できれば良いと思ったが、運良く命中し、エンジンを破壊。撃墜した。
「よし!」
部下も攻撃を仕掛けるが、うまく攻撃できない。
運良く機銃で一機、後ろに付けた二機をサイドワインダーで破壊した。
「敵機が逃げます」
「追いかけるな」
レーダーを見て確認したが、残った五機は円を描くように旋回している。
ワイゴホイール。
東側の基本戦術で、複数機が円を描くように飛行して互いの後方を援護し合う。撃墜しようと後ろに付こうとする敵機を、さらにその後方にいる味方が攻撃するという戦法だ。
「厄介だな」
このままループを続け、味方の基地へ逃げ帰るつもりだ。
だが、梶谷はあえて攻撃を仕掛けた。
「おい!」
上空から急降下すると、一機に狙いを定め、真上、真横から機銃弾を叩き込み、撃墜した。
「たまげたな」
後ろに行かず、真上から勢いを付けて攻撃。
射撃時間は短いが、後ろから迎撃される心配は無い。側面からの攻撃のため狙いにくいのも欠点だが、それを技量で撃墜した梶谷の腕は一級だ。
「突入だ!」
上原は、この隙を見逃さない。梶谷が撃墜した機体の前を進むミグの真後ろに滑り込み攻撃。撃墜した。
僚機も、前方の一機を撃墜する。
梶谷はさらに上をいった。攻撃後急上昇すると、後方にいたミグに正面から攻撃を仕掛け、撃墜したのだ。
「危なっかしいな」
梶谷のやり方に、上原は頼もしいと共に危険を感じる。
「敵機はいません」
「シカゴへ。全機撃墜した」
「ありがとう、バンシー。味方が助かった」
「いや、誘導が良かった。ありがとう、シカゴ。いや、ラリー・ノーウェル。今度会ったときに奢るよ」
誘導を担当するアメリカ海軍下士官のラリー・ノーウェルは、ベトナムのパイロット達から信頼を得ていた。
千回以上の誘導を行い、多数の撃墜に貢献。
その業績を認められ、下士官として史上二番目に海軍殊勲賞を与えられた。
「しかし、攻撃は進んでいますが、タン・ホア橋など主要な橋への攻撃は失敗しています」
「なに、すぐに終わる」
上原達が帰還する間に戦況は大きく変わろうとしていた。
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