佐久田の佐藤栄作への説得

「ベトナム戦争に再び参加する?」


「はい」


 東京に戻った佐久田は早速、佐藤栄作総理の説得を始めた。


「泥沼の戦争に勝ち目は無いだろう」


「勝つのでは無く講和の機会を作るための助力です」


「日本が関わる必要は無いだろう」


 ベトナムは先の見えない戦いになりつつある。

 テト攻勢での一件がなければ、日本はあそこで足抜けする事が出来なかっただろう。

 だらだらと戦争を続け、戦費と負傷者が増大する事態になっていたはずだ。

 足抜けしたあとは、米軍の後方支援基地として、装備品の納入修理、軍需品売り付け、ベトナム派遣軍将兵の休養地として休暇を過ごす米軍将兵の金が落ちている。

 おかげで日本は金が落ちてきており、豊かになった。

 戦争は、自ら参戦するより、関連商品を売り付ける方が儲かる。

 日本は現状維持が適切だと判断していた。


「はい、本筋ではそうです。ですが、ベトナム戦争の戦費でアメリカの財政は限界に達しています。このままではアメリカは破産します。回避する為に戦争を終わらせるのは重要でしょう」


「確かにな」


 アメリカは西側の盟主であり、最大の市場だ。

 戦費に財政が回されている状況は、アメリカ市場の衰退を意味しているし、破綻すれば西側陣営は大打撃を受ける。

 そうなれば東側の脅威が高まる。

 復活しつつあるがアメリカの軍事力に頼る日本にとってアメリカの衰退は良い状況では無い。

 アメリカにはまだまだ盟主として役に立って貰わなければならない。


「また参加すればアメリカに対して恩を売ることが出来ます。このあとの対米交渉で大きなカードになると考えます」


「ふむ」


 日本は復興を成し遂げ高度成長を遂げつつある。

 しかし、それも陰りが見えてきた。

 大阪万博までは上向きだったが、開催中から陰りが見え始めていた。

 更にアメリカへの繊維物の輸出がアメリカの繊維業界に打撃を与えていた。

 アメリカを守るため、日本に輸出を制限するよう求めていた。

 表向きには自由貿易を標榜するアメリカは貿易に制限を加えることは出来ない。

 そこで、アメリカ国内を守るため、日本に自主的に規制を行った事にしてアメリカに輸入品が入らないようにしたかった。

 しかし、日本も有望な市場であるアメリカ市場への輸出を制限したくない。

 もしベトナム戦争に参加するなら、対米交渉の切り札になる。

 繊維だけで無く、輸出が伸びつつある自動車業、ビッグ3を凌駕する実力を持ちつつある。

 市場規模も、取引額も、利益も、経済波及効果も比較にならないくらい大きな自動車産業を制限されると日本の成長が阻害される。

 口出しされないように、カードを持つことは重要だ。

 今後の自動車輸出による利益を考えれば参戦費用など十分に賄える。


「分かった。ベトナムへ再び参戦する事にしよう。だが、また泥沼に嵌まるのは勘弁だぞ」


「大丈夫です。今回は海上、航空からの攻撃が主です。地上軍の派遣は最小限で済む予定です」


「そうあって貰いたいな」


「来年一年のみという約束ですし、アメリカもベトナムから抜け出すために作戦を是が非でも成功させようとするでしょう」


 ベトナム戦争から抜けたがっているのはアメリカ、その国民だ。

 ニクソンがベトナム撤退を公約して、当選したのがその証拠だし撤収しなければ、公約違反として次の選挙はおぼつかない。

 今回の作戦は、絶対に成功させようとするだろう。


「万が一の時は、撤収も視野に入れています。ベトナムに関しては万全です」


「分かった。発表することにしよう」


 その日のうちに佐藤栄作総理はベトナムへの日本国防軍派遣を発表した。

 国内は反対の声が上がったが、強引に押し切り実行した。

 アメリカは当然、歓迎の意を表した。

 しかし、そのアメリカ、ホワイトハウスからとんでもない発表がなされた。


「来年七二年二月にニクソン大統領は東アジア訪問を行う。訪問国は日本人民共和国、満州、中華人民共和国、日本国、台湾、中華民国である」


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