ベトナム戦争は手詰まり
テト攻勢を軍事的な勝利で納めたアメリカだが、世論の支持が低下。
在ベトナム派遣米軍司令官ウェストモーランドは戦果拡大には更なる増強、二〇万の兵力が必要と訴えた。
だがホワイトハウスに拒絶された。
これ以上の増強は、さらなる徴兵の強化、予備役の動員、議会の承認が必要であり、支持率が低下している中、国民の負担が増大する政策を実行するのは不可能。
現状維持となった。
ニクソンが就任して和平交渉を行うにも北ベトナムは足下を、アメリカ国民の厭戦気分とアメリカ政府の弱腰を見ており強硬姿勢を崩していない。
大規模な作戦を北ベトナムに対してアメリカは実行できず、手詰まりだった。
「和平の席に北ベトナムを呼び出すために作戦を展開したいのです」
しかし、キッシンジャーは作戦を決行し強引でも引きずり出そうとした。
「無理矢理ですね」
「ええ、交渉するには相手を力で無理矢理、席に付けるしかないのです。そのことは、お二人には分かっているでしょう」
キッシンジャーの言葉に北山と佐久田は黙った。
二人が大戦後半の絶望的な戦いをしたのはアメリカを講和の席に付けるためだ。
沖縄への救援が遅れたのも米軍に打撃を与える、ソ連を参戦させ東アジアに脅威を増大させ、交渉の糸口を作るための状況作りのためだ。
そのために多数の艦艇を戦没させたのだ。
日本が講和を結ぶために。殆ど、降伏に近いが、無条件降伏よりマシな状況を作り出せた。
そして米国は北ベトナムに対し同じ事をしようとしている。
「アメリカ軍が増強できないので、日本から兵力を出せと」
「はい」
「他にも同盟国がいるでしょう」
「日本以外に頼りになる国はいません」
「韓国がいるでしょう」
「陸上兵力はともかく、海空戦力がありません」
佐久田は嘆息した。
東アジアで有力な兵力、特に海上兵力と航空兵力を持っているのは日本だけだ。
「北ベトナムへの空爆と艦砲射撃を考えているのですか?」
「そうです」
「地上軍で制圧する気はないのですね」
「出来る状況ではありませんから」
アメリカ軍は、これ以上兵力を出せる状態ではないし、南ベトナム軍は数はともかく練度と士気で問題がある。
韓国軍は、屈強さはあるが兵力が少ないし、モラルの点で問題がある。
中華民国は問題外だった。
中華人民共和国の文化大革命で疲弊している事から――餓えに耐えかね亡命してくる人民が多いことから、北伐を主張した。
しかし、分断されていても東側陣営の領域に西側が攻め込むのは外聞が悪かった。
また、ベトナム戦争を抱えているアメリカに中華民国を支援する余裕はなかった。
だが、好機を見逃せない蒋介石は中華民国独力で北伐を始めた。
攻撃は電撃的に行われ揚子江の渡河に成功。
当初は民衆に解放軍として迎えられ歓迎された。
だが、数日で破綻した。
中華民国を迎え入れた民衆が枷になったのだ。
侵攻した部隊の補給に関しては問題なかった。
だが、迎え入れた民衆、文化大革命により疲弊した民衆に与える食糧が無かった。
占領地が急速に拡大すると共に食糧の必要量は増していき、ついには中華民国軍への補給も滞るようになった。
そして現地調達に走ったが、乏しい量だったし、民衆からなけなしの食糧を奪ったことで恨みを買った。
占領地で暴動が起こり、ゲリラ活動が勃発するまでに時間はかからなかった。
その時、武装紅衛兵を中心とした人民解放軍の反撃が始まった。
元々、突然の北への侵攻の為、中華民国軍の準備が足りなかった。
その上、予期せぬ快進撃による戦線の伸び、占領地のゲリラ鎮圧活動などで兵力が文さん。
人民解放軍の反撃を迎撃できる状態ではなかった。
中華民国軍は敗退し、揚子江の南へ押し戻された。
かくして毛沢東は再び勝利した。
南へ攻めなかったのは渡河機材が無かった事が最大の要因だった。
そのため毛沢東は国内の地盤固め、ゲリラの掃討、中華民国軍に接触した反体制容疑者の処分に力を割いた。
共産党による処罰で生まれた犠牲者の数は数千万に及ぶとされていた。
もちろん、中華人民共和国の国力は低下している。
だが、数十万の軍勢と装備を失った中華民国に再び攻め込む力は無かった。
当然ベトナム方面に送る兵力は無く、むしろ軍の再建のためにベトナム国境の部隊を引き抜いていたほどだ。
ほかにも東アジアの西側国はいたが、台湾、オーストラリアは小規模で派遣できる戦力は少ない。
他の国は力が小さすぎて派遣すら難しい。
以上の理由から東アジアで動かせる有力な部隊は日本以外にいなかった。
「動けるのは日本軍しかいません」
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