証人喚問

 撃退されたデモ隊だったが、国会の証人喚問が迫っていた。

 デモの一件を理由に後日に回そうと政府与党は画策した。

 だが、野党が国民の注目を集める中、遅らせるのは民意にそぐわないと反対。

 予定通りに遂行することになった。

 そのため、三人は呼び出しを受けることが確実になった。

 しかし、その前に波乱が起きる事となった。




「では証人喚問を行います。証人、臼淵艦長」


 衆議院外交防衛委員会に証人として臼淵が入った。

 大和艦長、最高責任者として報道の言う虐殺事件の責任者、A級戦犯として吊し上げようと野党が待ち構えていた。

 だが臼淵は動揺を見せず、純白の第二種軍装を着込み、入室。

 その堂々たる姿と、純白の制服に多くの人が見とれた。

 一部の議員は臼淵優位になる事を恐れ、制服着用を止めるよう、威圧的で平和国家である日本の国会の場に相応しくないといて拒絶しようとした。

 しかし、政府によって規定された制服を脱げというのは、あまりに見当違いという話になり、制服のまま入って良いとされた。


「臼淵艦長、フォンニィ・フォンニャット村への砲撃を命じたのは誰ですか」


 臼淵は発言しようとしたが防衛庁職員が出てきて答えた。


「フォンニィ・フォンニャット村への砲撃前、大和に誘導弾攻撃があり、臼淵艦長は負傷し指揮不能でした。砲撃は被弾による指揮系統混乱によって発生した悲劇です」


「では、その悲劇をどうして止められなかったのですか」


「それは初めての砲撃で……」


「私は臼淵艦長に聞いているんです」


 野党議員のヤジが飛び、防衛庁職員はたじろぐ。

 だが、その中を臼淵は立ち上がり、颯爽と証言台へ歩いて行き、発言した。


「全ては私の責任です」


「全てとは」


「大和の被弾、フォンニィ・フォンニャット村への砲撃。全ての責任は大和艦長である私にあります」


「間違いありませんか。言い逃れしませんか」


 質問者である議員は言質を取ったとばかりに食い付く。

 だが臼淵は目を細め、刺すような視線を向けた。

 一瞬議員は怯むが、臼淵はハッキリした声で答えた。


「私は大和艦長であり、大和で起きた全ての責任は私に帰します。大和で起きた事、起こした事から逃れる事は決してありません」


「……分かりました」


 議員は落ち着きを取り戻し、更に追撃、戦果拡大を狙った。


「では砲撃の命令を下したのは一体誰なのですか」


 臼淵が砲撃、民間人居住区を砲撃する原因となった命令を下した人間を追究。

 ここから政府与党への攻撃材料を作ろうと考えた。

 だが、臼淵は一瞬悲しげな表情を浮かべて質問者を見た。


「誰なのです。答えてください。この場にいるなら教えてください。」


 答えない臼淵を議員は追究する議員。

 そして、指を正面に突き出した臼淵は答えた。


「あなた方です」


 一瞬、委員会室が沈黙したがすぐに怒声が巻き起こった。


「どういうことだ!」


「我々が命じたというのか!」


「責任逃れか!」


 ヤジが飛び交う中、臼淵は海軍時代から鍛え上げたよく通る声、嵐の中でも部下に届く声がヤジの中を貫いて、答えを響かせた。


「我々は日本国の部隊です。日本国国民の負託を受け、命令を受け行動します。法によって定められ、国会によって承認された行動しか取れません。国会が決定したこと以外の事を行う事など出来ません」


「我々のせいだというのか!」


「少なくとも、ベトナムに部隊を、大和を派遣したのは国会の命令によるものです。その結果を、責任を受け止めて貰わなくては、今後誰も従わないでしょう」


「脅迫する気か!」


「国会を侮辱するのか!」


「我々は反対票を入れたぞ」


 反対したにも関わらず責め立てられて野党議員達は怒った。


「帝国の亡霊! 負け犬が!」


 一人が怒りで叫んだ言葉を聞いた臼淵は、悲しげな表情を浮かべ答えた。


「大日本帝国はなくなり、日本国となりました。かつての国権の最高位は天皇陛下でしたが、今は国会です。国で起こったことの責任は国会が負うべきです」


 臼淵の言葉に、責任転嫁だと再びヤジが飛ぶ。

 だが、国会のルールに従うなら彼らも責任を負わなくてはならない。

 国会の一員としての責任を放棄する姿に、臼淵は半ば失望した。

 いや、明らかにしただけでも成果だと思った。

 その後は、不適切な発言を理由に委員長によって退室させられた。

 野党の追及を抑える為の方言であったが、与党として賛成を入れたことに対する罪悪感と余計な事を言ったことに対する苛立ちも含まれていた。

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