デモ隊制圧

 同じ戦術で他の機動隊も上手く行っていた。

 特に第八機動隊の動きは目を見張った。

 元は特科車両隊のため装甲車の扱いに慣れている。

 絶妙な運転テクニックで前進しデモ隊を威圧。

 その隙に路地裏を機動隊員が迅速に移動してデモ隊側面を急襲し分断、壊滅させた。


「凄い、まるで忍びだ」


 警視庁機動隊にはニックネームが付いているが、この時の働きから第八機動隊には「忍び」のニックネームが付いた。


「そろそろ頃合いだな。部隊を交代させろ」


「はいっ」


 常に前線で戦っていては、疲れてしまう。

 デモ隊は数万にも達するが、機動隊は数千人程度。

 疲労困憊となれば潰走してしまう。

 ローテションで戦う事で持久力を付ける計画だった。

 彼等は佐々の指示通りに動き、後ろの部隊と交代する。


「急いで検挙者を後ろに回し、部隊の回復を急げ」


 交代の理由はもう一つあり交流した容疑者を連れて行った隊員が戻るのを待つためだ。

 規則によりデモでの逮捕者は逮捕した者が留置所に連れて行かなければならない。

 つまり、一人捕まえたら前で戦う機動隊員が一人、後ろに下がってしまう。

 警察活動をすればするほど、戦力が減少してしまう。

 そこでローテーションで回し、下がった隊員が戻ってくるのを待つ。

 そして、戦力が回復したところでもう一度交代するのだ。

 これは上手く行きそうだと考えていが、予想外の事態が起きた。


「四機が苦戦中です」


「何だと」


 四機は前の安保闘争でデモ隊に死亡者を出してしまった事から鬼の四機、殺しの四機と呼ばれている。

 自らも自称し、苛烈な警備を行うと同時に精鋭を自認している。

 それだけにプライドが高く、佐々の言うことに反発している。

 正面から突入し、検挙しようとした。


「全く、仕方のない連中だ。二機と三機は?」


「多少苦戦しましたが、維持しています」


「そうか」


 反発したが佐々の言うことが有効であると認め、戦術を変えたようだ。


「四機が苦戦中」


「五機に突入するよう命じろ」


 ようやく出番が来たと喜んだ五機が勇んで突入していった。

 だが四機と共にデモ隊へ突入していった。


「何をやっている」


 四機と同様に攻撃しては、同じ轍を踏んでしまう。

 徐々に後退し始め警備本部に近付いてくる。

 しかし、五機が踏みとどまった。


「ぐおおおっっ」


 機動隊員の一人がゲバ棒で突かれ転がってきた。


「大丈夫か!」


 思わず佐々が叫ぶ。


「……落ち着いてください。上官が、部下の代わりに叫ぶものではありませんよ」


 腹を突かれて激痛が走っているはずなのに、彼は、痛みを表に出さず、煩わしいという雰囲気を出しながら立ち上がると悠然と前線に戻り始めた。


「なんて奴だ」


 名前は聞き忘れたが、あの雰囲気と巻いた独特の声は、忘れないだろう。

 そして佐々は冷静さを取り戻し、命じる。


「八機に四機と五機の正面へ。一機にも準備を命令」


 手元に総予備がいるが

 これで予備はいない。

 八機が何とかしてくれることを祈る。


「八機、突入開始」


 放水車を前に出してデモ隊を押しのける。

 更に各所に散った隊員が催涙弾を発射し、後続を抑えた。


「押し返せ!」


 後続がいなくなると、四機と五機が息を吹き返した。

 分断されたデモ隊を次々と抑え、逮捕していく。

 デモ隊は前進しようとするが、放水車と警備車が前に出てきて威圧するため前進できない。

 デモ隊は戦意を喪失し、下がりはじめ、逃げていった。

 だがこれで終わりではなかった。

 迂回してきた第一機動隊が後退したデモ隊の側面に到達し突入を開始。

 これがデモ隊のトドメとなった。


「制圧成功だな」


 デモ隊が撤退したという報告を受けて佐々は安堵した。

 検挙者多数しかし機動隊の負傷者は少ない。

 佐々の戦法、催涙弾と放水車によるアウトレンジ戦法が成功したのだ。


「いやあ、総予備とは良いものですね」


 警備部長に掴みかかるほど嫌がっていた第一機動隊長が、笑顔になるほどの成果だった。

 これまで幾度も警備実施をして部下は勿論、自らも負傷してきた。

 しかし、今回は負傷者は少なく、検挙者は多い。

 佐々を警備を知らない素人と侮っていた機動隊員達はこの日から、いつも私服、背広姿で来る佐々のことを「サイドベンツのお兄さん」と慕い、多くの警備で佐々の指揮に従いデモ隊を制圧していく。

 また、この警備が日本全国の機動隊の基本戦術となり、その後の大学封鎖解除などで威力を発揮し21世紀まで続く。


「借りは返しましたよ」


 背後の会館に向かって佐々は呟いた。

 自分を守ってくれた人間のお礼が出来たと喜んだ。

 だが、彼等はこれから苦難の道を歩むことになると思うと、佐々は気が重かった。




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