警備実施

 背広姿で警備本部に来た佐々は颯爽と指揮官席に付いた。

 出動服を着るように部下から要請されたが、どうも気に入らないので背広姿のままにさせて貰う。

 時間は足りなかったが、できる限りの事はした。

 訓練もそうだが、デモ隊の方にも色々と仕掛けをした。

 デモ隊が用意周到に迎撃態勢を整えたのは機動隊の基地を見張っていたシンパが連絡を入れていたからだ。

 佐々はこれを逆手に取り、夜中に突如出動のサイレンを流し、全車両を発進させた。

 勿論偽装であり、車両は周囲を一周すると元の基地に戻っていった。

 だがデモ隊は鎮圧に来たと身構え眠れぬ夜を過ごすことになる。

 そうしてデモ隊を疲弊させ、脱落者が出るように、残った者も寝不足で疲労困憊にした。

 時にデモ隊の本部に、機動隊が出動して向かっている、と虚偽の電話をかけることさえ行っていた。

 事前警備実施も行い、危険人物の予防拘禁や火炎瓶などの危険物を押収する事も行って機動隊の安全を確保した。

 これには新たに配属した二〇代前半の夜間大学に通う若手警察官、情報収集班が活躍してくれた。

 通常、警備一課などの本部には一〇年勤務した中堅の警察官が配属されるが、彼等の年齢は一番若くても二〇代後半。

 十代から二十代前半が大半の学生の中に入るには年齢が行き過ぎて、直ぐに警視庁の回し者と分かって仕舞う。

 そこで佐々は、前例を破り、二十歳前後の警察官、それも夜間大学に通い、大学の事情にも精通した優秀な若手警察官を集めた。

 彼等をデモ隊の集会に潜入させ、情報収集を行わせていた。

 結果は大成功で、物資の隠匿や、デモの中心人物の特定に成功し、事前の予防拘禁や隠匿物資、火炎瓶、銃器類、爆弾の摘発を行い、デモ隊の組織力を低下させる事に成功した。

 各機動隊も既存の四個中隊に加え、特別機動隊――各管区の警察署員から編成される機動隊を動員し二個中隊加えて増員し持久力を上げる。

 さらに常設の機動隊の他に臨時に編成される方面機動隊と関東一円の警察からなる管区機動隊も動員。

 デモ隊がこれ以上増えないように道路封鎖や側面後方の警備、警戒を行い、対処できる様にしている。


「やれることは全てやった」


 短期間だが、できうる限りの準備を行った。

 あとは結果を見せるだけだ。

 勿論、失敗する気など無い。

 デモ隊の跳梁跋扈を許せば、首都東京の治安が守れない。

 それに後ろの会館にはサイゴンでともに戦った三人、デモ隊の標的になっている人達がいる。

 彼等を守る為にも佐々は負ける気にはなれなかった。


「始めよう。各隊計画通り前進」


 佐々が命じると、第六、第七、第八機動隊が前進する。

 いずれも1月に編成されたばかりの新しい機動隊だが、その分素直で飲み込みも早く、早速使う事にした。

 勿論、万が一に備えて、後方に古参の機動隊を配置して瓦解しないようにしている。

 大盾を古代ローマ軍の亀甲陣のように前方だけでなく横と上にも構え投石に備える。

 案の定、デモ隊は投石を始めた。

 石畳の道路の礎石を剥がし、力を込めて機動隊に投げつけてくる。

 だが、大盾を構えるのは屈強な機動隊員。

 投石の衝撃に耐えきり、前進していく。

 その迫力にデモ隊も下がる。

 だが、投石の数は近づくにつれて増えていく。


「後退」


 だがここで佐々はあえて後退するように命じた。

 機動隊は渋々ながら、背中に大盾を背負うようにして背中を守り、下がっていく。

 下がっていく姿を見たデモ隊は潰走したと思い、それまでの恐怖を振り払うように追いかけてきた。


「今だ! 反転!」


 佐々の命令で機動隊は一斉に反転。

 突出したデモ隊の一部と激突し、逮捕することに成功した。

 助けようとデモ隊が殺到するが、迅速に陣形を立て直した機動隊を前に突破できない。

 それでも数を頼りに攻め込もうとする。


「催涙弾! 及び放水はじめ!」


 佐々が命じると催涙弾が大仰角で放たれた。

 水平に放って直撃すると死傷者が出かねないため、勢いを殺すためあえて高く、放物線を描くように打ち込む。

 白い煙がデモ隊の中に充満し、目の痛みから動けなる者が続出した。

 更に放水車の放水も始まり、デモ隊の勢いを止める。

 こうやって、デモ隊の前後を分断した。


「検挙!」


 前にいる機動隊が前に出てデモ隊を抑えにかかった。

 デモ隊は人数は多いが、分断したため、後続はない。

 投石で抵抗しようにもすでに礎石を剥がした部分なので後ろから運び込む手間の分、数が少ない。

 手際よく逮捕して留置所へ送り込んでいく。


「よし良いぞ」


 自分の作戦が図に当たり佐々は喜んだ。


「第七、第八機動隊も上手く行っています」

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