砂川の決断――大和の反撃
「なんだこの爆発は!」
爆発した瞬間、大和は大きな衝撃を受けた。
思わず砂川が叫んでしまうほどの衝撃だ。
主砲射撃を除き艦内が大きく動いたことなど、なかった。
そもそも無敵の戦艦大和という幻想を抱いていた砂川には、被弾するという想像など、出来無かった。
「落ち着いてください、分隊士」
水兵上がりの古参下士官が落ち着かせる。
極東戦争から乗艦しており、稚内沖で武蔵との打ち合いを経験しており被弾にも慣れていた。
「あ、ああ」
砂川は落ち着きを取り戻し、尋ねる。
「状況報告」
「本艦に飛翔体命中」
「装甲は貫通したのか」
「いいえ、無事です」
大和の装甲は世界最高であり決して破られない砂川は信じていた。
しかし再びの爆発に動揺する。
「今度は何だ」
「敵の弾頭が爆発したようです」
「大丈夫か」
「艦長負傷の報告が入っています」
「何だと!」
分隊長、いや艦長が負傷したことに砂川は動揺した。
自分を厳しくも優しく指導し、大和に乗り国きっかけを与えてくれた人だ。
その人が負傷したことに動揺を隠せない。
「ご無事なのか!」
「頭部を負傷し意識不明、しかし命に別状はないのことです」
「そうか」
話を聞いて砂川は安堵する。
「分隊士、指示をお願いします」
「何を言っているんだ。副長がいるだろう」
指揮権継承序列に従えば艦長負傷時には副長が指揮を行う事になっている。
「被弾箇所で火災が発生し副長が対応しています」
だが、副長は艦内の防御指揮が任務であり左舷で起きた大火災を鎮火する事に手一杯だった。
「砲術長がいるだろう」
「艦の指揮のために、手が離せません。他の幹部も負傷者が多いのです」
副長に代わって砲術長が艦の指揮を執っているようだ。
「副長より砲撃指示を砂川大尉に一任されました」
「なんてこった」
徴兵制が廃止された日本では国防軍も自衛隊も人員不足だ。
幹部も同じであり多くの欠員が出ている。
砲術長も砲術関係の分隊をいくつも掛け持ちしており、砂川の分隊も引き受けている。
しかし実際の実務は砂川に一任している。
いつもと同じだが、責任を取ってくれる存在がいるかいないかでは、切れ味が違う。
だがやらなければならない。
「近隣に航空隊は」
「いません。再出撃に一時間はかかります」
「ダメだ」
敵が再攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。
再攻撃までの時間は分からないが、一時間もかからないだろう。
「全艦全速! 発射地点を目標とし大和を攻撃位置へ!」
幸い、発射位置までは近い。
大和が近づき、射程内に収め、直接叩く。
「主砲装填! 弾種三式弾改!」
地上攻撃用に無数の弾子を詰めたモノだ。
改良が加えられており、貫通力を出すため鋼鉄の弾体の中に焼夷材を詰めている。
曳光弾に近いが量も貫通力も高い。
「目標捕捉!」
「砲撃開始! 本射始め!」
本来なら試射を行わなければならないが時間が惜しい。
再び攻撃される前に攻撃し、周りに砲弾をばらまく。
大和の主砲が火を噴いた。
一五秒に一回、前部にある二基の主砲六門が火を噴き、一.五トンの砲弾を飛翔させる。
自動装填装置のおかげで九〇秒の間に七回の砲撃を行い四二発の主砲弾を放った。
だが、最大射程で発砲したため、敵に命中するまで一二〇秒近くかかる。
しかも、接近に時間がかかり、相手に再装填の時間を与えてしまった。
「飛翔体を探知! 大和に接近中!」
「主砲照準変更! 目標飛翔体! 砲撃諸元算出! 信管調整急げ!」
大和に接近されたら確実に命中して仕舞う。
その前に、接近される前に遠くで撃墜する。
「早くしろ!」
訓練通りにやれば最新の電子計算機を使っていることもあり十数秒で算出し、主砲へ伝え信管調整、装填を行い三十秒で終わる。
だが、飛翔体、ミサイルの速度は最終的に九〇〇キロを超える。
対応するには時間が少なすぎて、砂川は焦る。
「砲撃準備完了!」
二八秒後、部下が報告し砂川は命じた。
「主砲斉射!」
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