ソ連対艦ミサイル部隊

 アメリカがトルコ、ソ連の脇腹を突くように中距離弾道ミサイルを配備したことに対抗して、ソ連は米本土に近いキューバに中距離弾道ミサイルの配備を決定。

 ミサイルは積み込んだ船団を向かわせた。

 アメリカは、裏庭、それもフロリダの目と鼻の先にミサイルを置かれることを看過できず、本土防衛のためキューバの海上封鎖を決定。

 大西洋艦隊の艦艇、戦艦、空母を主力とする艦隊で封鎖した。

 戦艦、空母を第一線から外し小型艦ばかりになったソ連海軍は船団を護衛する艦艇。

 封鎖線を強行突破、ぶつけられても押しのけるだけの大きさの艦艇がなかった。

 一部の輸送船には対艦ミサイルを装備していた。

 だが発射しアメリカ海軍の艦艇を撃沈すればそれも戦争の切っ掛けになってしまう。

 大砲とは違い、威力を見せていないミサイルでは威嚇にもならない。

 戦艦、空母、巡洋艦からなるアメリカの封鎖線を前にソ連の船団は引き返すことになった。

 勿論、核戦争を望まない米ソ両国首脳の合意もあった。

 だが、キューバへの船団入港失敗、ミサイル撤去はフルシチョフの政治生命に致命傷を与えた。

 アメリカの要求によるキューバへのミサイル配備の撤回。

 東側の盟主が西側の盟主に屈服したのと同じ意味であり、東側そしてソ連邦内でのフルシチョフの求心力は低下。

 書記長を辞任することになる。

 米軍に屈したのは海上戦力の不足と認識したソ連は再び大海軍の建設を始める。

 しかし、一度中断した大型艦建造を再開するには時間がかかる。

 満州国と北日本から再購入、建造しても絶対数が少ない。

 そのため、大型艦の数を補い、大量に配備された小型艦艇を活用するため、対艦ミサイルの開発配備に今まで以上に力を注いだ。

 そうして出来た対艦ミサイルは小型艦艇に配備されたが、射程が増大するに従い、陸上からでも沖合の艦艇を攻撃できる射程を持つに至った。

 P15テルミート――NATOコードネーム、スティックスもその一つであり、元は四〇キロの射程しかなかったが、改良型は八〇キロの射程を持つに至った。

 陸上からの攻撃も可能なレベルだった。

 実戦も経験していた。

 対艦ミサイルは東側諸国に輸出されており、輸入したエジプトは67年の第三次中東戦争以降、挑発を繰り返すイスラエル海軍に報復すべくP15を使用した。

 67年10月エジプトの領海侵犯をしていたイスラエル駆逐艦エイラートにエジプト海軍のミサイル艇がP15を発射し命中。

 見事撃沈し、対艦ミサイルの威力、小型艦でも撃てる上、駆逐艦を撃沈する能力があることを証明した。

 しかし、ミサイルに懐疑的な意見もあった。

 エイラートの排水量は二〇〇〇トン未満。

 一万トンを越える大型艦、特に西側海軍の主戦力である戦艦、空母に有効なのか、小型艦だったためミサイルの効果があった、という疑念だ。

 反論はあったし、議論もなされたが、誰も真実は分からなかった。

 かつての航空機のように戦艦を沈め得る能力を獲得できると主張する者もいたが、実績が、実戦証明がないため説得力を持たず、疑念が残っていた。

 しかし、真価を示そうとする存在がいた。

 フルシチョフが失脚し、予算が減らされ始めたソ連の対艦ミサイル部隊は威力を示すべくベトナムへの派遣を要請。

 西側に一矢報いるべく、また大した威力はない、損傷を負わせることは出来ても、撃沈か匹敵する大損害は与えられない、とソ連上層部は考えていた。

 大きな宣伝にはなるが、西側との関係悪化を避けられる、ベトナム戦争でアメリカを牽制できると考えていた。

 ハノイに運ばれたミサイルはホー・チ・ミンルートで運ばれ、沿岸部まで輸送された。

 名目上はテト攻勢の成功で、ベトコンの要請により進出した北ベトナム軍による攻撃とした。

 そしてソ連擬装トロール船から大和の現在位置を知らされたミサイル部隊は指定された座標へ向けてミサイルを発射。

 ミサイルはプログラム通りに目標へ、大和に向かっていく。

 対艦ミサイルは戦艦に効果があるか、戦艦を撃沈し得るか。

 戦艦、大型艦にミサイルは有効なのか。

 この議論に、今決着が付こうとしていた。

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