スターリン死後のソ連海軍

 スターリン死後、颯爽と書記長となったフルシチョフ――勿論その裏で激しい後継者争いが行われた――は、スターリンによって混乱したソ連邦の立て直しを図っていた。

 その中には肥大化した海軍の削減も含まれていた。

 海洋航路の規模が小さいソ連にとって海軍は国境沿い、僅かな沿岸部――北極海は氷で閉ざされているため事実上沿岸はない――を守れれば十分だ。

 これはレーニン以来の共産党の海軍への考えであり、国境警備、沿岸警備、陸軍への支援さえ出来れば良いとされた。

 スターリンが大海軍建設を目指したのはむしろ例外だ。

 ロシア内戦の時、ウクライナで白軍を相手に戦ったとき、外国から大量の援助物資を受け取った白軍に苦戦した。

 その経験からロシアを守るため、帝国主義の列強から守るために海軍が必要だと主張し書記長になると大海軍を建造した。

 独裁者のため、計画は実行され、大戦中の中断を挟むも大海軍建設は継続。

 大戦終結後は満州国の協力もありソビエツキー・ソユーズ級戦艦などを建造し大ソ連海軍の建設に成功している。

 しかし、これらはスターリン個人の考えであり共産党の主流では無かった。

 そのためスターリン死後、方針が転換されるのも当然だった。

 書記長となったフルシチョフは建造は勿論、維持費の掛かる海軍を縮小しようとした。

 だが、西側の巨大な戦艦と空母がソ連の脅威である事は変わらない。

 陸軍が沿岸を固めても艦砲射撃と空爆で撃破され、上陸部隊に攻め込まれる。

 内陸に引き込んで撃滅する作戦はロシア以来の伝統だが、攻め込まれているという事実は、ソ連への印象が悪くなる。

 出来る事なら、外洋で撃滅したいし、西側の権力の象徴である空母、戦艦に打撃を与えたかった。

 以上の理由から戦艦空母への対抗手段がソ連には必要だったが、駆逐艦、魚雷艇、潜水艦などの小型艦艇は安く維持費が割安だが、威力が無い。

 航空機はパイロットの育成に時間がかかるし、海軍艦艇を撃沈するには大量に必要。

 育てて、大攻撃機部隊を編成しても実戦では大損害を受ける。

 西側の機動部隊の激しい対空砲火、太平洋戦争で日本軍相手に攻撃を迎撃するために磨かれた装備とシステムの前に攻撃前に九割近くが撃墜されて仕舞う。

 損耗を補うために大量の予備パイロットと機体を保有する必要があるし、整備員などの支援要員も必要になる。

 その経費は海軍維持の比ではない。

 航空機なので他への転用、陸上支援などの任務投入は容易だ。

 だが、任務の切り替えは容易ではないし、西側の艦艇が存在する限り攻撃の機会を待つため、待機させておく必要がある。

 そのため安易に海軍を、戦艦などの大型艦艇を削減できなかった。

 しかし、救世主が現れた。


「ミサイルなら撃破出来るでしょう」


 フルシチョフが家族で寛いでいるとき悩みを話したら娘婿が返した一言がきっかけだった。

 フルシチョフの娘婿はロケット工学者であり、無人のミサイルを敵艦に命中させる方法を提案した。

 第二次大戦中ドイツは誘導兵器を作っていた。

 大型化したロケットと組み合わせてミサイルにすれば、無人で敵艦に突っ込んでくれる。

 教育と素質が必要なパイロットを犠牲にする必要は無いし、重量も一トンから二トンと小型艦艇に搭載出来る大きさ。

 手軽で効果的な新兵器の構想にフルシチョフは喜び、直ちに開発を命令。

 そして開発は進められソ連で複数の対艦ミサイルが誕生した。

 困難はあったが開発された対艦ミサイルは早速、古い大型艦艇を標的に使った実験に使われた。

 開発につきものの初期不良などで命中したのは半分程度だった。

 だが、一割にも満たない命中率しかない艦砲射撃、数年の訓練が必要なパイロットによる雷撃の命中率二割に比べれば、驚異的な命中率だった。

 実験用として作られたため、弾頭は小さく炸薬も少なく被害はそれほどでも無かった。

 だが将来発展し大型化すれば威力は十分と判断された。

 ソ連海軍は対艦ミサイルとそれを装備した小型艦艇を主力とする事が決定。

 海軍艦艇は縮小され、建造中の大型艦は建造中止。

 就役艦も予備艦となるか売却された。

 満州国と北日本は日本列島に邪魔されているとはいえ、太平洋への航路を持っており海軍の維持を行った。

 ソ連が売り払った大型艦を購入したのも彼らだ。他の共産国は内陸か沿岸部の身の上国力が小さく維持さえ出来ない。

 こうして海軍の規模を縮小し、予算を削減してソ連の財政を立て直したフルシチョフだが、この海軍の縮小が彼に致命傷を与えた。

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