支援射撃と謎の飛行体

 砂川の言う障害物とはソ連のトロール漁船、に見せかけたスパイ漁船だ。

 外洋に艦艇を展開させられないソ連は、西側の主要艦艇を監視するため小型のトロール漁船に擬装したスパイ船を貼り付けていた。

 監視対象は主に空母だが、東側へ艦砲射撃で大損害を与えていた大和も重要監視対象としてマークされていた。

 大和も承知していたが、追い払うことは出来ない。

 一応、中立国の船であり、航海では自由に航行出来る。

 時折漁業中と言って邪魔、到底漁獲が望めない場所で網を張っていても邪険には出来ない。

 外れ玉が当たらないよう進路上にいないか確認しなければならない厄介者だ。


「よし、砲撃開始」


 砂川の命令で放下が開始された。


「着弾まで五,四,三,二,一、今」


「地上部隊より命中確認。修正の要なし。本射求む」


「砲撃継続」


 一五秒に一回、砲撃の振動が響く。

 砲撃音が心地よい。

 正にこれがあ戦艦、いや大和だ。

 しかし、同時に砂川は不満だ。

 上手く当たっている事は報告で受けているが、甲板で斉射を見たいものだ。

 前の配置では艦橋だったため、演習の時、初めて斉射を観た時の身体を芯から震えさせるあの衝撃は何にもまして素晴らしい。

 だが、今は持ち場を、艦の奥深くから離れる事は出来ない。


「砲撃終わりました」


「部隊から目標壊滅。支援感謝する、とのことです」


「了解、漁船の方はどうだ?」


「大量だと言っています」


 大和が砲撃を行った事を本国と北ベトナム、ベトコンに送っているのだろう。

 砲撃中の大和の周りで魚が捕れないことなど、誰でも知っているのにわざとらしく言うのは馬鹿げている。

 このときまで、砂川はそう思っていた。


「陸上から何か飛び出しました」


 陸上を監視していた部下のレーダー画面――射線上に味方がいないか確認する為に同じ画面が映るよう備え付けられている画面に光点が現れた。

 確かに陸上から何かが飛び出したのだ。


「水平飛行をとりました。飛行体と認めます」


「味方のヘリか」


 報告を受けた砂川は思った事を言った。

 空を飛ぶのは味方しかいないという考えが強い。

 四機という編隊で飛んでいることからも味方に思えた。

 ベトコンの制圧地域から出てきたが、攻撃を終えた味方だと思った。


「違います。速度が速すぎます」


 ヘリは精々二〇〇キロぐらいしか出せない。

 だがこの飛行体は時速五〇〇キロ以上。

 今も加速し続けている。


「攻撃を終えた攻撃機か」


「それでは変です」


 幾度も敵味方識別を行ってきたレーダー手は、これまでの経験から否定する。


「反応が小さいですし、低空を大和に向かってくる必要などありません」


 味方の空母の位置を確認した。

 機体の進路上に空母はいない。

 航空機、パイロットは燃料切れを恐れて最短距離を飛ぶ習性がある。

 大和に向かうなど変だ。

 時折大和の姿を見ようと針路を変えてくる機体はいるが、攻撃後の疲れた状態でやってくることは滅多にない。


「方位を間違えた味方か」


 それでも砂川に敵機という考えは無かった。

 北ベトナムから離れているし、南ベトナムは友軍。

 ベトコンは飛行機など使えない。


「IFFに反応無し」


「故障か」


 あり得ることを前提に砂川は呟いた。機械故障など良くあることだ。だが、すぐに否定する。

 全ての機体のIFFが故障するなどあり得ない。


「あ、一機、高度が低下し墜落しました!」


「救助ヘリを飛ばせ」


 墜落したら助けなければならない。

 しかしレーダー手は異変を伝える。


「残りの機体は真っ直ぐ大和に向かっています」


「何だと」


 通常なら墜落した味方の様子を見るために旋回するはず。

 救助要請も出ていない。

 ここでようやく砂川は異常事態である事を認識した。


「目標、急速に本艦に接近。速度九〇〇を越えました」


「空襲警報を出せっ! 対空戦闘用意! 航空機の攻撃だ!」


 砂川は警報を出した。

 しかし既に遅かった。

 このとき既に艦橋には報告が上がっていた。

 だが、少数のため偵察行動と考えていた。

 もし攻撃でも単機では大した脅威ではないと考えられていた。

 しかし、臼淵艦長はすぐに対応を命じ、大和は回避行動と対空戦闘を行うよう命じた。

 だが、彼らは間違っていた。

 やってきているのは航空機ではなかった。

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