ベトナムでの大和の立ち位置

「まったく困った事だ」


 大和に戻った砂川は溜息を吐いた。

 ホテルに戻ったあと、日本ベトナム派遣軍から交代の部隊が迅速にやってきた。

 日航ホテルと大使館を守るためではなく、須加を迅速に呼び戻すための方便だった。

 大使館とホテルはそれぞれ完全武装の一個中隊で守られ、須加はお役御免としてえ復帰を命令された。

 それを砂川も、上原も止める事は出来なかった。

 だが、おかげでホテルと大使館に閉じ込められた民間人や休暇、帰休兵も戻る事が出来た。

 砂川も大急ぎで急行してきた大和から発艦したヘリに乗り込み脱出した。

 戦闘を経験したことから艦内で休暇を許され、休んでいた。

 だが須加のことが気になる。


「流石に殴るのは問題だろう」


 須加とロアンの事件は日本と南ベトナムの間で外交問題となった。

 同盟国の高官に殴り掛かったのだから処罰が予想されたが事態は更に進んだ。


「だが奴は許せない」


 ロアンは日本の管理下にあった捕虜を勝手に連れ出し裁判なしに射殺した。

 南ベトナム国内だが軍事活動を行う同盟軍への背信行為だ。

このことで防衛庁は南ベトナム政府へ抗議を行った。

 だが南ベトナムのテロリストの管理と処罰は南ベトナムにあると主張する南ベトナム政府ともめ事になった。

 特にロアンは、南ベトナム副大統領と軍隊時代からの友人関係で政界に入った後は警察畑で共産主義者、反体制派の弾圧で手柄を立てて支えていた。

 そのため、処罰は難しいとの事だった。

 だが、それ以上にロアンが行った処刑が衝撃的だった。

 処刑の瞬間がカメラに収められており全世界に放映された。

 そのため世界中の人々が驚き、ショックを受け、ベトナム戦争に対する支持を取り下げていった。

 その中で須加はロアンを直後に殴ったことから一部で英雄視され始めており、国際政治上の重要人物になりつつあった。


「大丈夫かな須加は」


 日本に召喚するべき、という声も上がったが、テト攻勢中で兵力不足の中、指揮官を交代する贅沢は許されなかった。

 懲罰として前線に送られるという話しさえ出ているが、噂だった。

 むしろそのような疑いを掛けられたくないと防衛庁は思っている。

 ただ須加本人が大人しくしているかどうかは未知数だ。


「艦長より命令です。羽盾三番より支援要請。大隊規模のベトコン発見。支援射撃せよ」


「了解。要請、敵座標を通信長に確認。砲撃用意」


 だが、砂川も忙しかった。

 休んでいると余計な事を考えて仕舞うため、願い出て任務に復帰した。

 テト攻勢の対応で大和はサイゴンでの救出が終わるとすぐに支援射撃へ復帰している。

 日本から到着したばかりの空中機動師団が展開し、生き残ったベトコンを探し回っていた。

 見つけると大和の圧倒的砲撃力で仕留め、ショックを受けたところを制圧するのだ。

 それは上手くいっていった。

 勿論に日本の部隊だけで無く、アメリカなど他国の部隊から支援を求められることもあり、艦長の命令で砲撃している。

 アメリカ軍の方は事情があった。

 通信技術の発展により、前線と上級司令部との通信が良くなった。

 そのためホワイトハウスに設けられたシチュエーションルームから前線に直接命令が下せるようになった。

 だが、これは悪い方向へ作用した。

 ホワイトハウスが直接前線の作戦に介入するようになった。

 しかも、スタッフの大半は碌に従軍経験もないしまして専門の訓練を受けているわけでもない。

 政治的必要性、パフォーマンスのために無意味な制限が多く課され、米軍の動きが悪くなってしまった。

 それを知った将兵が、帰国してホワイトハウス、ジョンソン大統領のことを悪く言って支持率低下。

 挽回しようと更に前線に指示を、制限を加えて作戦が上手くいかない。

 この繰り返しだった。

 そのため自由に使える兵力が米軍には、五〇万もの陸上兵力を持ちながら事実上機能していなかったなかった。

 そんなとき、頼りにされたのが日本や韓国などの同盟軍だった。

 当初はEATOの要請により派遣され事実上米軍の指揮下に入る事になっていた。

 だが、在ベトナム派遣米軍の指揮下に入るとジョンソン大統領の指示を日本の部隊が直接受ける事になってしまう。

 実際、ジョンソン大統領が指示を出してきたため問題が起こり、国際問題となった。

 そのため、在ベトナム派遣米軍司令官ウェストモーランドは同盟国部隊は米軍の直接指揮ではなく調整関係とした。

 指揮系統が分かれ、指揮の統一性が損なわれたが、良い面もあった。

 まず大統領からの直接指示が同盟軍に入ることは無くなった。

 そして米軍、ウェストモーランドにとっても制限の多い米軍部隊より、簡単に支援要請に応えてくれる同盟軍部隊の方が機動戦力として優れていた。

 特に大和以下の戦艦を有する日本水上部隊は圧倒的な攻撃力を誇り、頼りになる存在だった。

 そのため、大和に対する支援要請が多くなり、砂川達は忙しくなった。

 一部では米軍の下働き、傭兵だと不満が述べられていたが、いずれにしても砂川としては命令通り砲撃するだけだ。


「砲撃準備完了しました」


「障害物はないか?」


「我々の北方へ退避しています」

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