路上射殺
レム少尉は撃ち抜かれ即死した。
銃弾が入り込んだ場所と反対側から弾が突き抜け、血煙を出して地面に倒れて言った。
あっという間の出来事で須加が入る事も出来なかった。
撃った男は笑みを浮かべ満足そうだった。
人の命を奪った罪悪感などない。
むしろ、自信満々に、自慢げだった。
害虫を駆除した様な達成感と自己顕示の笑みを浮かべた。
その証拠に笑って、罪悪感も無く言う。
「仏様も許してくれるだろう」
「俺は許さん!」
その男に須加は拳を振るった。
到底許せなかった。
自分の捕虜を殺されたこともそうだが、自分に命を預けた人間をないがしろにされたこと、なにより人を簡単に殺したことが許せなかった。
実戦で鍛え上げられた須加の肉体から放たれた拳は男を吹き飛ばし、地面に転がった。
「……何をする!」
男は殴られた衝撃で一瞬、呆然としたが、すぐに怒りで怒鳴り散らす。
「自分がした事が分からないのか!」
その態度に須加は更に激昂し、馬乗りになると更に数発殴ろうとした。
だが、周囲にいたベトナムの警官が押さえ込んできた。
「抑えろ!」
「放せ!」
ベトナムの警官が須加を取り押さえようとする。
だが須加の力が強く、二人が吹き飛ばされた。
「抵抗するな!」
「暴れるな!」
「こいつ、殺しちまえ」
「大尉を救え!」
ベトナム警察の言葉に、須加の戦いに信服した予備隊の隊員が来て須加を救出する。
警察官達は須加を拘束しようとするが、完全武装で殺気立っている須加の部下達の迫力に押されて躊躇する。
「何故撃った! 何故撃ったんだ!」
須加はあらん限りの声で腹の底の怒りを乗せて問い詰める。
「こいつらはテロリストだ。根絶やしにしなければまた何時こんなことを起こすか分からん」
殴られた男も立ち上がり、怒鳴り返す。
「違う! 俺たちの部隊、日本に降伏して捕虜になったんだ!」
「ベトナム国内の犯罪者はベトナム国家警察が処罰する」
「裁判もなしに殺すのか! そもそも日本の元に拘束されている!」
「日本は再びベトナムを制圧するのか」
「ベトナム国内でも日本に降伏した捕虜の管轄は日本だ」
「須加さん抑えて!」
駆けつけた佐々が須加を抑える。
「相手が悪すぎます」
「誰なんだ」
「南ベトナム国家警察のロアン総監です」
警察関係者のため佐々はロアンの顔を知っていた。
「だからなんだ」
「これ以上問題を起こしたら日本と南ベトナムの関係に問題が」
「既にこいつは起こしている! 日本の捕虜を勝手に連れ出し処刑した!」
「分かっています! しかし、同盟国の警察のトップです!」
「同じ警官だから止めるのか」
「いいえ、私も腹が立ちます。しかし、抗議するにも順序があります。このまま須加さんが殴れば射殺したロアン総監と同じです」
「くっ」
佐々に言われてようやく須加は大人しくなった。
「今日の所は引きましょう。後日、正式なルートで抗議させて貰います」
佐々はそう言うと、須加にホテルへ戻るように頼み込み、部隊を下がらせた。
警官達は怒っていて須加を捕らえようか、と考えた。
だが、須加達の武装を見て攻撃を躊躇した。
ロアンの子飼いでも、完全武装の軍人を相手にする気概はなかった。
まして勇猛さで南ベトナムに名が轟く、日本の部隊。
それも最前線で戦う海兵師団のエンブレムが須加の袖に付いていたら手出ししようなど考えない。
ロアンはわめき立てたが、須加が去るのを止める事は出来なかった。
須加は、ロアンの罵声を背に振り返らず車両に乗ると、ホテルに戻るよう命じた。
トラブルが起きても、米軍は約束を守りホテルと大使館に食糧を届けた。
一息吐けたが、直後から事態は急激に動いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます