市街地戦
「敵襲!」
自らの発砲音を圧する大声で須加が伝える。
出鼻を挫かれたベトコンは壁の陰に隠れ、須加の部下達が制圧射撃を行う。
「突撃する! 着剣!」
少数と判断しけりを付ける。
「突撃に! 前へ!」
須加は、真っ先に突入した。
指揮官なのだから、後方で待機するべきだが、寄せ集めの部隊、夜明けに会ったばかりの人間の命令、階級が高くても、訓練された兵隊でも従うのは躊躇する。
指揮官自ら先頭に立って引っ張らなければ、付いてこないし部隊はまとまらない。
戦場でバラバラになった部隊を纏めることなどしょっちゅうで、その時どうすれば纏まるか須加はよく知っており、個々で実践した。
「うおおおっっっ」
味方の援護射撃が終わりベトコンが出てくるまでの刹那の間に須加は交戦距離を駆け抜け、ベトコンの元へ突入した。
驚いたベトコンは発砲しようと構えたが、須加は既にベトコンの懐に入り、銃剣を突き出した。
「ぐはっ」
「うおおおっっっっ」
須加は勢いのままベトコンの身体ごと、押し戻した。
そして、ベトコンの仲間を見ると躊躇無く引き金を引く。
7.62ミリの大口径小銃弾は身体を貫通しても十分な、殺傷能力を持っており、ベトコンを倒した。
「制圧しろ!」
周囲の制圧を命じ、見渡す。
他のベトコンはいない。
耳を澄ませるとM16の発砲音が聞こえてくる。
味方の制圧は順調のようだ。
「もう終わりか」
地図で現在位置を確認し、統制線、何処まで進出して良いか確認する。
この線を越えて行ったら、味方の攻撃、中の様子を知らない迫撃砲部隊や、航空部隊の攻撃を受ける。
ナパームで焼かれるなどゴメンだ。
「周囲の警戒を」
部下に命じようとした時、背中に冷たい刺激、悪寒が走った。
何か分からない、だがこういうときは必ず悪いことが起きる。
ベトコンの不意打ちを食らった時も流れた。
最初はROTCで手榴弾の投擲訓練中、何故か嫌な予感がして離れた。直後手榴弾が暴発して同期が死に、離れていた須加だけが残った。
何故離れたのか、命令に反したことをキツく問い詰めてくる指導教官に正直に話すと「それが予感だ。大事にしろ」と諭すように言われ解放された。
何だったか分からないが、須加は大切にしている。
時に何も怒らないことがあるがそれで良かった、と須加は言い聞かせている。
だから生き残れたと。
このときも須加は同じように部下に躊躇無く命じた。
「伏せろ!」
ぼけっとしている部下をっこ無用に自らも倒れた直後、手榴弾が投げ込まれた。
爆発の後、無数の銃声が響く。
「ベトコンの奇襲か」
「違う! M16だ! 味方のアメリカ軍だ!」
須加達は撃退し鹵獲したAKを装備したまま制圧に来ていた。
それが拙かった。
しかも須加達は日本人、黄色人種でありアメリカ人にはベトナム人と区別が付きにくい。
「We are Japan Army! Stop shoot!」
「VC Dead」
「止めろヤンキー! 殺してやろうか!」
須加が日本語で叫ぶと銃声が止んだ。
「スミマセン、ベトコントオモッタ」
すると片言の日本語で米軍の指揮官が駆け寄ってきて謝罪した。
休暇で日本に行き、僅かながら日本語を覚えたため須加達が日本人だと理解できたのだ。
こうした同士討ちを避けるため統制線を越えて攻撃するには許可が要る。
米軍に厳重に抗議しようと思った時、新たな銃撃音がした。
「またベトコンが来たか」
銃声はM16だった。
米軍の指揮官は銃声のした方向へ向かう。
しかし須加は行かなかった。 銃声が近付いてくる。
「待て!」
須加は叫んだが、日本語のため米軍将校は理解できなかった。
直後米軍将校とその部下がM16の銃弾に貫かれて絶命した。
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