ショロン地区制圧

「しかし、我々に援軍を求めるほど状況は不利なのでしょうか」


 臨時に須加の副官となった少尉が語りかける。

 幸か不幸か休暇中、彼は日航ホテルに泊まっていた時、襲撃を受けた。

 料理店で酒を飲み過ぎて部屋に残っていた時、攻撃を受け防衛線に参加した。

 だが運が良かった。

 同期は遊び足りなくてショロン地区へ行き帰ってきていない。

 心配だが、ベトナム駐留は長いため切り替える事は出来ている――出来なかった同期は、日本に帰るか除隊している。


「ショロン地区にこもったベトコンを掃討できないなどおかしいです」


「だからこそ我々を呼んだのだろう」


 疑問に答えるようにショロン地区から銃火がUH1ガンシップに集中する。

 たちまち被弾したガンシップは火達磨になり、ベトナムの川に墜落していった。

 その光景は戦況が厳しい事を須加達に明確に伝えた。

須加達は止まることはなかったが、誰もが無言になった。


「戦況は?」


 ショロン地区に到着すると須加は制圧を担当する米軍と打ち合わせを行う。

 南ベトナム軍の姿はない。

 サイゴン周辺には精鋭部隊が配備されているはずだが、アンチクーデター、クーデター部隊のためかこのような攻撃に弱いらしい。

 いや南ベトナム軍上層部の動きが相変わらず鈍いのだ。

 上空を飛ぶのが星を付けたスカイレーダーとガンシップヘリだけであることがその証明だった。


「建物にベトコンが潜んでいて前進できない」


 指揮官らしい米軍の少佐が市街図を見せて説明する。


「君たちは、この街路の十字路まで前進。周囲の建物のクリアリングを行ってくれ」


「了解しました。ただ、日本大使館と日航ホテルへ食糧援助と負傷者の搬送をお願いします」


「分かった。一区画だけでも制圧できれば余裕が出る。援助部隊は送ってやる」


「ありがとうございます。総員集合!」


 言質を取ると須加はすぐに部隊を集め命じる。


「我々は、この市街区の制圧を命じられた。第一分隊は突入! 第二は後詰め! 第三は突入支援! 第四は予備だ! 第一と第二が入ったら第三は続け! 第一と第二で交互にクリアリングする。作戦開始!」


「了解!」


 須加の命令に予備隊は躊躇無く返事をした。


「待て大尉、君たちの後続はいつ来るんだ」


「これが我々の全兵力です」


「なっ」


 話を聞いた米軍少佐は愕然とした。


「少佐。ご心配なく。すぐに終了させます」


「待て! 大尉! 少なすぎる!」


 日本軍は予め一個大隊を日航ホテルと大使館に配置し襲撃したベトコン数個中隊を手早く制圧した。

 と言う情報があり、ショロン地区制圧に使えると米軍司令部は考え、援軍を要請した。

 混乱する戦場での錯誤であり、須加に真実を聞かされた少佐は驚き、慌てて止めた。

 だが、遅かった。


「続け!」


 指示が聞こえず須加が先頭に立って日本部隊は地区へ突っ込んでいった。

 ベトコンが機銃斉射してくるが、援護の部隊が

 市街戦の基本はエリア制圧。

 決められたエリアを常に制圧するのが基本だ。

 そのため一つ一つの部屋を確実に掃討していく。


「異常なし! 突入する!」


 須加は部屋の中を覗いて無人である事を確認すると手榴弾を入れた。

 民間人がいないことを確認し、死角にいるベトコンを圧倒するために放り込む。


「突入!」


 爆発と共に内部に入り部屋の中を見渡す。

 人が隠れやすそうな場所は小銃を撃ち込み確認する。


「クリア!」


「クリア!」


 誰もいないことを確認する。

 市街地戦では確実に制圧、敵がいないことを確認しなければならない。

 見逃したら背後を襲撃され、損害が出てしまう。


「良し!」


 誰もいないことを確認すると部屋を出て扉にスプレーで丸を書く。

 制圧済みを伝える目印だ。


「第二班前進!」


 次は須加が援護に周り、突入する部隊を支援する。

 突入は危険なため交代で行うのが、暗黙の了解だ。


「クリア!」


 第二班が次の部屋を制圧した時だった。

 前方からAK銃口が見えた。

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