ハガルリ陣地

 第五、第七海兵連隊を主力とする部隊は長津湖の南端ハガルリ、米軍の補給基地が開設された場所に到着したのは一二月三日だった。

 この陣地は保持されており、後退に際して収容陣地として設定されていた。

 数日間の戦闘と、二日にわたる撤退戦で疲弊していた将兵はようやく逃れられたと安堵してへたり込んだ。


「まだ終わっていないぞ!」


だがハガルリに到着したパットンは怒鳴る。


「補給を急げ! 補給が終わったら三日間交代で休養、補給して再び海岸線へ向かう!」


 山岳地帯はまだ続くし、目的地は遙か先だ。

 休養が必要な事はパットンも分かっているが、必要な事を行ってからだ。


「負傷者の後送も忘れるな!」


 ハガルリには一二月一日に出来たばかりの滑走路があった。

 ここから輸送機を使い、補給だけでなく負傷者を後方へ移送していた。

 安全な後方へ行ける手段とあって命令なく輸送機に将兵が殺到し混乱することをパットンは懸念していた。

 包囲下で輸送機にパニックになった将兵が殺到するという現象は連合、枢軸問わず起きる問題だった。

 だが、杞憂だった。

 全ての将兵は部署に付き、輸送機に乗り込もうとする者はいなかった。

 お陰で、後送計画は無事に進み、五〇〇〇名以上の負傷者を送り出すことに成功。

 撤退を容易にした。

 だが、中共軍も容易には撤退させてくれない。

 派遣された中共軍第九軍集団は包囲殲滅しようと攻撃を仕掛けて来た。

 ドラの音が響き渡ると、ハガルリへ向かって攻撃を仕掛けて来た。


「畜生! 海兵隊死んでしまえ!」


「米帝国主義の尖兵! 海兵隊を殲滅しろ!」


「日本の再侵略を許すな!」


 中共軍の士気は高かく日米軍に罵詈雑言を浴びせて突撃してきた。


「米国は悪徳の巣窟で、米軍は鬼畜のように残虐だ! 奴らは家の中に入ってきた蛇を殺すように抹殺しなければならない」


 日頃から政治委員がこのように演説して聞かされているのだから仕方ない。

 しかし、日米軍もタダではやられない。


「応戦しろ! 撃ちまくれ!」


 銃をとれる者、全員がM1ガーランドを手にして頑強に抵抗し、中共軍の攻撃を阻んだ。

 特に西の砲戦車部隊は、大口径砲である事を利用し榴弾射撃で中共軍の突撃梯団を粉砕した。

 しかもキャタピラ駆動のため、ハガルリ各所へ駆けつけ砲撃する事が可能で、守備の重要な戦力となった。

 数日にわたり攻撃を受けたハガルリ陣地だったが、決して突破されることはなく守り切り、補給と休養、負傷者の後送を終えることが出来た。

 準備は迅速に整い、あえて休養期間を設けたことで士気が回復し将兵の動きが機敏になった。


「進撃再開だ!」


 六日、日米連合軍はハガルリより撤退を再開した。

 次に向かうのは古土里。

 ここには米海兵第一連隊が守備陣地を作り撤退援護していた。他にも陸軍と英国海兵コマンド、韓国の野戦警察がいた。

 ここの部隊と合流し、南へ撤退するのが当面の目的だ。

 だが、中共軍はそれを許さない。


「閣下、我々を追いかける中共の第九軍集団六個師団は間もなく攻撃を仕掛ける様です」


 西はパットンに報告した。


「どうして分かる」


「先ほど捕らえた捕虜の情報です」


「確かか?」


「捕虜の心得がないのか、簡単に喋ります」


 共産中国軍は帝国陸軍と同じだった。

 捕虜の心得を教えておらず、捕まった時味方の情報を簡単に話してしまうのだ。

 そのため、西達は簡単に情報を得ることができてしまった。


「宜しい、ならば先制奇襲攻撃だ。敵の集結地点に砲撃を行え。海兵隊は突撃して蹴散らすんだ」


「了解!」


 パットンは迅速に決断し攻撃を命じた。

 山岳部、極寒の中での攻撃だったが、三日間の休養期間を得て士気を回復した国連軍将兵の動きは機敏だった。

 時間が惜しい中、あえて休養を与えた効果が出た。

 国連軍は撤退中で攻撃しないと油断していた中共軍は先制奇襲されて混乱し、撃退された。

 その間に、部隊を古土里まで撤退させることに成功。

 海岸へ向かって国連軍は進撃するが苦難は始まったばかりだった。

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