地獄谷の炎

米軍の陣地に戻ってきたのは西率いる五式砲戦車部隊だった。

 中共軍の陣地を破壊し、無事に戻ってきたのだ。

 出撃した時より台数は減っていたが、各車の車体に数名乗っているところを見ると脱出に成功したらしい。

 なにより、中共軍の追撃を遅らせてくれたのが有り難い。

 だからスミス少将は前にでて西達を迎え入れた。


「連隊長! 酷いですな!」


 歓迎に来たスミス少将に西は抗議する。


「我々が戻るのを待たずに楽しいパーティーを行うとは。失礼では」


「申し訳ない、招かれざる客でしたが、来たからにはお相手しなければなりません。米海兵隊はどんなお客でも迅速にもてなします。歓迎の仕方はお相手によりますが」


「なるほど」


 西は喜色満面で答えた。


「では、我らもパーティーに参加させて貰いましょう。自分達のパーティーは終わりましたので」


「二次会ですか。良いでしょう。丁度南の方に招かれざる客がまた出てきたようですので」


「早速行きましょう」


「閣下、我々を置いて突撃など酷すぎます。我々も突撃させてください」


 追いついた西は、パットンと合流すると笑って文句を言う。


「済まんな。時間をわきまえない客は直ぐにもてなさんとな。直ぐに終わる。一寸、行って蹴散らしてくるから待っていろ」


「閣下、英雄には供回りが必要ですが」


「先ほどまで戦っていたサムライにご足労をかけては申し訳ない」


「閣下、サムライとは<さぶらう者>、侍る、近くに仕える者という意味です。英雄の近くに侍ることこそサムライの誉。戦いに赴くのであれば尚更です。それとも東の果ての武人は力になりませんか」


「そこまで言われては是非も無い、来て貰うぞ」


「喜んで!」


 国連軍、米第一海兵師団に襲いかかった共産義勇軍だった。しかし包囲下で低下していた米軍の士気は日本軍の増援により、息を吹き返し敢然と反撃した。

 それでも山岳部、隘路しか補給路が無いため、国連軍は撤退を余儀なくされた。

 幸いにも、機甲兵力が通れるのは一本道しかなく、共産軍の機甲部隊は増援に来た西率いる砲戦車部隊が撃退した。

 後方、徳洞峠に回り込んだのは山中を迂回した軽装備の中共軍だった。

 そこへ戦車を含む日米連合部隊が攻撃を仕掛けて来たのだから負けは確実だった。

 あっという間に蹴散らされ、国連軍は突破していった。

 しかし、受難は続く。


「山の上から攻撃を受けています!」


 国連軍が撤退に使う道の両側にはそそり立つ山々。

 そこを中共軍が占領していた。

 国連軍なら登れないと判断するが、中国の山野でゲリラ戦を行った中共軍にとって、山岳地帯の走破は簡単だ。

 攻勢開始と同時に進出し、占領。

 下の街道を通る国連軍補給部隊に攻撃を浴びせていた。

 撤退する部隊に対しても容赦なく攻撃を加える。

 激しい攻撃の為、のちに「地獄谷の炎」と呼ばれる程、苛烈な砲火を国連軍は浴びていた。


「構うな! 突進しろ!」


 対応しようにも、兵力が足りない。

 撤退路を攻撃されるのは危険だが、安全の為に山を登らせて占領させると多大な犠牲が出る。

 安全の為に、一時的にでも占領しようか、とパットンは考えるが、この寒さの中山を登るのは困難であり、数日の内に撤退する。

 幸い、遠くからの攻撃。それも重火器はなく小銃が殆どなので、戦車を前後に盾として配置してコンボイを作って、撤退させる。


「ぎゃあっ」


 だが時折、不運な隊員が被弾し負傷者の列に加わる。


「このままでは危険か」


 やはり占領するべきかと考えるが、上空から風を切り裂くような音が聞こえた。


「味方の攻撃機です!」


 猛吹雪の中、危険を承知でA1スカイレイダーが離陸し、撤退援護の為に長津湖までやって来た。

 前線統制官の指示に従い、A1は山の尾根に対して降下するとナパーム弾を投下。

 VT信管により上空一〇〇メートルで爆発し、火の雨が降り注ぐ。

 中共軍が陣取る尾根は火の海に包まれ、火達磨になった兵士が、逃げようと尾根から飛び降りるのが見えた。

 尾根の向こう側で爆発が起きた。

 二次爆発だ。

 弾薬の集積所が破壊されたようだ。

 反対側の尾根にも同様の攻撃が行われ、国連軍への攻撃が一時的に止んだ。


「好機だ! 今のうちに進め!」


 燃えている間は流石に中共軍も来られない。

 今のうちに街道を進み、味方の陣地に行くのが最良だ。

 攻撃を受けた国連軍の全将兵はその事を嫌というほど分かっており、自ら率先して、進撃。

 国連軍は短時間の内に、目的地であるハルガリに到達する事が出来た。

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