後方への進撃

「攻撃開始!」


 パットンの命令を受けて西は攻撃を開始した。

 置き去りにした部下も次々と到着しており、攻撃には十分だ。

 それでも指揮下にあるのは二〇両に満たない。

 だが西は全兵力を投入して攻撃を仕掛けた。

 出し惜しみできるような状況ではない。

 それに部下の半数を置き去りにしたということは、残り半数が今も向かってきているということだ。

 後からやってくる部下達を予備にすればよい。

 そう割り切って西は攻撃を命じた。

 二〇両の五式砲戦車が、仰角を上げて稜線の向こう側へ一〇〇ミリ砲を叩き込む。

 自走砲的な運用も考えられていた事もあり、この手の砲撃は得意だ。

 共産軍の陣地に砲撃の雨が降る。

 大人しかったが、大規模な爆発が起きた。

 次々と爆破が起きていることから弾薬庫に直撃し誘爆を起こしているらしい。


「突撃!」


 砲兵の弾薬を破壊、戦力を低下させた以上、この好機を見逃さなかった。

 西は稜線を乗り越え、共産軍の陣地に乗り込んでいく。

 そして恐慌状態に陥る共産軍を蹂躙し、生き残った重砲を破壊していった。

 宗像の部隊も参加し、戦車が見落とした集積庫などを発見して破壊していく。


「素晴らしい」


 攻撃を見ていたパットンも感嘆の声を上げた。

 しかし、悪い知らせが入ってきた。


「中共軍が後方に回り込んできました!」


 中共軍は装備が劣悪で戦力的に大した事が無いとされる。

 しかし、彼らの本質は、その劣悪な環境下でも長躯行動できることだ。

 零下三〇度の極寒の中、殆ど防寒着もなく、素足に地下状態で野山を駆けまわる事が出来る軍隊は殆どいない。

 少なくとも米軍には出来ない。

 米軍の陣地を迂回し、山を通り抜けて後方へ進出したのは偶然ではなかった。

 勿論、多数の部隊を出し、一部が到達したに過ぎない。

 だが、米軍の連絡線を遮断し、包囲下に置くことに成功していた。


「包囲された」


 自分達が味方から切り離された恐怖から海兵隊に動揺が広がる。


「狼狽えるな!」


 だが、闘将パットンは狼狽えず、むしろ活を入れる。


「我々は敵と戦うために来たんだ! 敵が現れたのなら攻撃に向かうのみだ!」


「そうだ!」


 スミス師団長も叱咤する。


「我々は包囲を突破するのではない! 後ろに現れた敵を撃滅しに行くのだ!」


 詭弁に近かったが、少なくとも海兵隊の士気を向上させることに成功した。


「直ちに向かうぞ!」


 一度動き出したら海兵隊は止まらない。慌ただしく動き出した。


「師団長、攻撃開始にどれくらい掛かる?」


 パットンが気にしたのは攻撃までの時間だ。

 時間をかけすぎれば、敵が防備を固めてしまう。

 攻撃準備に半日かかる事も多い。

 必要な事は理科いているが機会を逸することをパットンは恐れた。

 しかし、杞憂だった。


「閣下、海兵隊のモットーは準備に一時間以上かけないことです」


「どういうことだ?」


「我々にとって困難とは通常より三〇分余計に掛かることであり、不可能とは困難より三〇分余計に掛かるという事です。つまり一時間あれば不可能な事などありません」


「頼もしい」


 無茶苦茶な言い方だったがそれが海兵隊だった。


「総員に銃を取らせろ! 重傷者もトラックに乗せろ!」


「負傷者も戦うのか」


「海兵は全員ライフルマンです。後方に留まる海兵隊員などいません」


「良いことだ」


 パットンは満足し頷いた。

 師団長スミス少将の意図、負傷者も収容しての撤退を考えていることを理解して黙認していた。

 そして海兵隊は言葉通り、命令発令から一時間で攻撃を開始した。


「突撃だ!」


 なけなしの兵力を掻き集め、一点に集中して突破した。

 劣勢に立たされていた海兵隊だが、元から戦車や重砲類を装備する優秀な部隊だ。

 もともと兵力が少なく重火器類も持っていない中共軍は簡単に撃破された。


「通路が確保出来ました!」


「よし! 後方にも更な敵が進出している! これを撃滅する為に突撃するぞ!」


「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」


 海兵隊の指揮は天を突くばかりだった。

 ただ師団長のスミス少将だけは、後ろを見ていた。

 共産軍の攻撃破砕攻撃に向かった日本軍が心配だった。

 速く来なければ彼らが敵中に孤立してしまう。

 自分達の攻撃が成功したのは、彼らが中共軍に攻撃を仕掛け、攻勢を頓挫させたからだ。

 でなければ、攻撃中の無防備な背中を撃たれはしない。


「早く来てくれ」


 日本軍が早く来てくれることを願った。

 自分達もこの道路を何時までも確保出来る自信は無かった。


「キャタピラの駆動音です!」


 北の方から機甲部隊の音が聞こえる。

 敵か味方か。

 猛虎戦車だったら自分達はお終いだ。

 しかし、現れたシルエットを見て歓声を上げた。


「味方だ! 日本軍だ!」


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