稜線の攻防戦
フィアーズタイガー
国連軍の間では、満州国の猛虎戦車をそう呼んで恐怖していた。
T34を超える能力。
バズーカをものともせず、前進してくる戦車など恐怖の象徴でしかない。
向かってくるのが、たった一両だとしても。
「対戦車戦闘用意!」
だが、日本軍は怯まなかった。
バズーカと対戦車地雷を用意し、射撃体勢を整える。
「撃て!」
M1小銃による射撃が始まった。
勿論、猛虎戦車には効かない。
猛虎戦車の砲塔がゆっくりと射撃地点に向かって旋回し、止まった。
「退避!」
狙われた兵士が逃げた直後、猛虎は発砲。
陣地を吹き飛ばした。
直後に迫撃砲の雨が降るが、猛虎は前進を止めない。
米兵は恐慌状態だが、宗像少佐は、にやりと笑った。
「よし、歩兵を切り離したぞ」
戦車単独では大した敵ではない。
その図体に比べ視界は非常に限られており、容易に接近できる。
特に側面と後方は忍び寄りやすい。
勿論戦車側も知っており、随伴歩兵が戦車の周囲を警戒し、援護し近づけさせない。
だから、最初に小銃と迫撃砲の雨で、随伴歩兵を片付け、戦車を丸裸にした。
敵歩兵がいない猛虎に宗像の部下が接近し、至近距離から対戦車地雷を放った。
地雷を踏み抜いた猛虎はキャタピラを破壊され走行不能になる。
それでも前進しようとするが片側だけしか動かない。
不用意に弱い側面を曝し、バズーカの餌食となった。
「やったぞ!」
日米の兵士から歓声が上がり、中国兵達は意気消沈した。
だが、宗像は満足そうに頷くだけだった。
自分が部下達を然う訓練した。
沖縄と硫黄島でM4シャーマン相手に幾度も使い戦車を葬ってきた手だ。
分かりきった結果だ。
これで暫くは攻撃はないと考えた。
だが甘かった。
寒気の中から多数のキャタピラの音が響き、向かい側の稜線から多数の猛虎戦車が現れた。
「退避!」
主砲が自分達を向くのをみて宗像は叫んだ。
急な斜面を飛び降りるように下った直後、自分がいた場所が122ミリ戦車砲の直撃を吹き飛ぶ。
稜線の殆どに戦車砲の射撃が行われ、顔を出すことが出来ない。
「接近されるな」
太平洋戦争の激戦を戦い抜いた宗像は経験から、敵の射撃に圧倒され這いつくばっている状況が頻発した故に、敵の作戦が分かる。
火力で押さえつけ、顔が出せない間に、突撃部隊が自分達に接近してきて突撃し制圧してくる。
「敵の突入に備えろ!」
銃剣の固定を確認し、ガーランドのクリップを新しい物に取り替える。
相変わらず着弾の衝撃音が激しいが、その間に敵歩兵が迫る足音が徐々に大きくなっているのを宗像は感じた。
そして、敵の射撃が止まった瞬間、宗像は命じた。
「来るぞ! 迎撃! 駆け走れ!」
部下より速く宗像は立ち上がり、日本刀を握って稜線に向かって駆け出した。
坂はキツくすぐに息が上がりそうになるが、優位を、敵よりも高い位置を占め、戦いを優位に進めたかった。
高地を取れるかどうかで部下も自分も生き残れる確率が高まる。
だから必死に走った。
息が上がり、足は重くなるが、渾身の力を込めて上がる。
そして、勝った。
息は上がりかけていたが、共産軍は谷底から登ってきたために更に疲労していた。
「うおおおおっっっっ」
目の前にいた中国兵を日本刀で刺突し、追い払う。
周囲から中国兵が銃撃をしてきて斜面の影に隠れるが、部下が追いついてきた。
「手榴弾っ!」
部下達はすぐに持っていた手榴弾を稜線の向こうへ投げ込んだ。
多数の爆発が起き、銃声は止む。
すぐさま稜線に上り、高所を確保する。
手榴弾の爆発で中国兵は怯み、
一時後退していた。
しかし、まだ多数がいる。
「撃て!」
上から銃撃を浴びせた。
身を乗り出すことになるが、上から撃てるため有利に戦える。いざとなれば手榴弾を仕える。
やがて、勝ち目がないと考えた中国兵は後退していった。
「よし」
宗像は防衛線が安定したと考え安堵した。
しかし、束の間だった。
猛虎戦車の集団が攻め寄せてきたのだ。
「拙い!」
戦車が走行できる傾斜の緩い部分を攻め寄せてきた。
宗像の部隊の殆どが対戦車火器を使い切っていたし、備えも出来ていない。
猛虎戦車は易々と防衛線、稜線を超えて、進出してきた。
「第二! 第三小隊! 迎撃しろ!」
宗像はトランシーバーで命じるが、他の防衛線が突破された時に備えて、予備は下で待機している。
猛虎は稜線に橋頭堡を作り、中国兵を次々に進出させている。
「何とかしなければ」
ここから防衛線が瓦解しかねない。
何とかしたいが宗像の手持ちでは無理だ。
下にいる部下が状況を把握して、猛虎を独断専行で攻撃した。
正しい判断だったが、犠牲は大きかった。
猛虎一両を撃破と引き換えに残りのもうこの集中射撃を浴びて対戦車藩が全滅した。
「誰か助けてくれ」
宗像は小さく呟いた。
神に縋ることなど無い。
だが無力な自分に出来る事はそれしかなかった。
そして、祈りは通じた。
猛虎戦車を、一筋の光が貫き、爆発させた。
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