架空戦記 旭日旗の元に

吹雪の中の白兵戦

　ジャーンジャーンジャーンジャーン

「な、なんだ！」

　突然の音に新兵達は飛び起きた。

　すかさずサミュエルの怒声が上がる。

「起きろ新兵！　敵のお出迎えだ！　配置に付け！」

　蹴り出すように呆けている新兵を配置に付かせる。

　寒さに震えながら、彼らが配置に付いた時ラッパの音が響き、再び中共軍が攻めてきた。

「ひいいっっ」

「まだ撃つなよ！」

　迫ってくる敵に新兵が恐怖を抱いている。

　中には射程外にもかかわらず発砲する奴もいる。

「撃つなと言っているだろう！」

　サミュエルが叫んだ直後、発砲地点に向かって中共軍が射撃を集中し、新兵は沈黙した。

　一斉に撃たないと、集中砲火を受けて危険なのだ。

　それを見た他の新兵達が恐怖を抱き、逃げ出したい気持ちが広がる。

「射撃用意！」

　だがサミュエルの声で銃を構える。

　新兵訓練で叩き込まれた動作が、恐怖心を押さえつけて身体を動かした。

　ガタガタと震える身体でM1を構えつつ、彼らは待つ。

　そして中共軍の集団の真ん中で爆発が起きた。

　後方の迫撃砲が支援として撃ってくれたのだ。

　予め照準を定めていたので狙いは的確。ど真ん中で炸裂し、損害を与え、突撃を鈍らせる。

「撃て！」

　サミュエルの指示で分隊は銃撃を開始した。

　まだ迫ってくる中共軍の先鋒がいたが砲撃で後方と分断された今は突出している孤立した敵に過ぎない。

　集中射撃を浴びせて、撃退した。

「射撃止め！」

　敵が倒れたことを確認したサミュエルは射撃を中止させるが、恐怖に駆られた新兵は銃を撃ち続けた。

　弾切れになってもトリガーを引き続け、「弾が出ない」と叫び槓桿を何度もスライどさせる。

「落ち着け」

　サミュエルは襟首を掴んで落ち着かせる。

「敵は撃退した！　クリップを交換して入りに戻れ！」

「は、はい！」

　新兵は急いで、準備を整え始めるが、その時、上官から命令が来る。

「おいサミュエル！　北側の陣地の兵力が足りない！　四人連れて向かえ！」

「了解！　行くぞ！」

　北側は敵の正面であり激戦地だ。

　戦死者も多く、本心を言えば行きたくない。

　だが、守り切らなければ蹂躙されてしまう。

　サミュエルは拒否することなく、手近にいた兵士を集め向かった。

　そして到着した直後、再びラッパの音が響いてきた。

「来やがった！」

　急いで手近な蛸壺に入る。

　任務中で倒れている仲間を底に寝かせてサミュエルはM1を構えて撃ちまくる。

「畜生！　キリが無い！」

　中共軍の攻撃は執拗だった。

　倒しても倒しても、迫ってくる。

　しかも味方の数は減る一方、このままでは押し切られてしまう。

　もっと兵力が欲しい。

　しかし、そんな兵力が少ないことはサミュエルはわかりきっていた。

　だから撃ちまくるしかない。

　クリップを交換し、撃ち続ける。

「撃ちまくれ！」

　部下に命じる。それ以外に言えることはない。

　攻撃が激しすぎて、怒鳴るだけで精一杯で指示など出来ない。

　サミュエル自身も自分を守るだけで手一杯だ。

　至近距離に迫った中国兵に銃口を向けトリガーを引く。

　だが弾が出ない。

「畜生！　不発だ！」

　寒すぎて不発が多発しているが、最悪の時に起きてしまった。

「シャアアアアアッッッッッ」

　銃剣を突き立てて中国兵が迫ってきた。

　サミュエルは、M1を捨て、コルトガバメントを引き抜き、素早く敵兵の腹に数発撃ち込み倒した。

　一息吐いて、周囲を確認する。

　発砲音、M1の射撃音が少なくなっていく。

「うわあああっっ」

　悲鳴が聞こえた。

　名前は覚えていないが今日配属されたばかりの新兵だ。先程の戦闘で上げた悲鳴と同じだからすぐに分かった。

「大丈夫か！」

　今日配属されたばかりでも、名前を覚えていなくても部下だ。

　助けようと近付く。

　数人の中国兵が集まって、銃剣で地面を、いや部下を何度も刺していた。

「このチャイニーズめ！」

　サミュエルはガバメントを中国兵に撃ち込み倒すと刺されていた部下に駆け寄る。

「大丈夫か！」

　声をかけるが一目見て、絶命していることがわかってしまった。

「畜生！」

　こみ上げた怒りを銃弾に込めて近くの中国兵へ叩き付ける。

「兵力が足りない」

　一通り、怒りを発散したところで冷静さを取り戻したサミュエルは、周囲を確認して状況を把握した。

　頭数が足りなすぎて中国軍の攻撃を防ぎきれない。

　援軍が必要だった。

「シャアアアアアッッッッッ」

「しまった！」

　気づかぬまま囲まれサミュエルは背後から中国兵が迫ってきて銃剣を尽きたてきた。

タアアアンンッ

　だが、突如響いてきた銃声と共に中国兵が倒れた。

　銃声が下方向を見ると驚いたことに同じ中国兵だった。

　いや、米軍装備で身を固めている。

　そして彼らの腕章にはミートボールいや、日の丸が輝き、驚きと喜びを持ってサミュエルは彼らの所属を叫んだ。

「日本軍だ！」